・・・舞台衣裳に働かす活溌な想像力はパイプのやにの中にさえ待ち合わさぬロンドンの一流から四流までの劇場で、幕が下り、また幕が上り、舞台から夜会服の男女俳優が同じように夜会服の男女観客に向ってうわ目を使いつつ腰を曲げ、喨々たる国歌が吹奏されたのであ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・女をそういうところで働かす社会の習慣はまだまだ一般につよく遺っているのである。自分の月給で小さい買物だけすれば生活の根本に不安のない、いくらか生活力に溢れた娘さんたちは、社会のしきたりが女の実力を育ててゆく習慣の上にその位おくれている歴史の・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・鈿女命の踊りは、氏族に重大な問題が起った時に、後世のような偏見は持たれず、女がその解決のために自由な創意を働かすことが出来たという当時の社会の事実をも語っている。 こういう原始社会の生産が次第に進んで、日本民族は次第に一定の土地に一定の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・二つの体を一つの意志で働かすように二人は背後から目ざす男に飛び着いて、黙って両腕をしっかり攫んだ。「何をしやあがる」と叫んだ男は、振り放そうと身をもがいた。 無言の二人は釘抜で釘を挟んだように腕を攫んだまま、もがく男を道傍の立木の蔭・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫