・・・故に夫婦家に居て互いに苦労を共にするは、一方において二重の苦労に似たれども、その苦労の代りには一人の快楽を二人の間に共にして、即ち二重の快楽なれば、つまり損亡とてはなくして苦楽相償い、平均してなお余楽あるものと知るべし。 されば夫婦家に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・今日は二の酉でしかも晴天であるから、昨年来雨に降られた償いを今日一日に取りかえそうという大景気で、その景気づけに高く吊ってある提灯だと分るとその赤い色が非常に愉快に見えて来た。 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目に・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・それは尾崎氏らを殺した人々に向ってこそ、国民が今日求める償いである。」そして、私は諒解したのであった。この心もちに、自由と正義を求めるすべての人民の情熱が凝っているのだ、と。 世界に類のない日本の治安維持法は、昭和三年に制定され、撤廃さ・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・だから、それで償いは十分につく、という説の上に立てられた計画であるらしい。話したひとは、眉のところに独特の表情を泛べて口元を曲げながら、でもねえ、そんなに何年ももつような建物が果して建てられるだけたっぷりした予算がとれるんでしょうか。よしん・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・トルストイの世界観の中では、母と子の関係が人間生活に於ける宗教的な道徳的償いという意味をこめて、歴史的には封建的家長制度的な固い絆でくくりつけられている。このことは「アンナ・カレーニナ」にも現れているし、「戦争と平和」の中に、アンドレー老公・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・この人達は、自分の強いられて来た大きい深い犠牲に対して、どんな真実の償いがされていることを見出しただろう。権力に強制だけあって誠実の皆無であったこと。人間に対する真実の拠り所が心の内で失われた感じ。その虚無的な心持をどこへ、どう建て直すべき・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫