・・・この時はもう優美な日本女性のシンボルであった丸髷はエプロン姿にその象徴をゆずった。 エプロン姿は幾旬日かの間に、良人にかわって一家の経営をひきついで行かなければならなくなった主婦たちの感情を反映するようになり、この多岐な一年の終りの近づ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・物蔭の小高いところから、そちらを見下すと、そこには隈なく陽が照るなかに、優美な装束の人たちが、恭々しいうちにも賑やかでうちとけた供まわりを随えて、静かにざわめいている。 黒い装束の主人たる人物は、おもむろに車の方へ進んでいる。が、まだ牛・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ うっとりとした彼の目には、拭きこんだ硝子越しに、葉をふるい落した冬の欅の優美な細枝が、くっきり青空に浮いているのが見えた。ほんの僅かな白雲が微に流れて端の枝を掠め、次の枝の陰になり、繊細な黒レースのような真中の濃い網めを通って彼方にゆ・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・遠くには大勢の人気のある、しかもそこだけには廃園の趣があって優美な詩趣に溢れていた。わたしは自分の隅としてそこを愛し、謂わばその隅で生長したのであった。 日本女子大学の英文科予科に一学期ほどいたことがある。ここの学校でも心に刻まれて・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・昔からその優美さで世界にしられているフランスの婦人たちは、第一回の選挙に、どう投票したでしょう。 彼女たちは、百五十三名の、共産党代議士を選び出して、共産党を第一党としました。その中には十七名の婦人代議士が加っており、他のどの政党よりも・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・美しさにしろたのしさにしろ、その民族或いはその人々が実際には半ば奴隷の立場に甘んじていて、自分の民族の独立や世界の平和のために良心的な何の発言も行動もなし得ないほど無気力であったなら、その固有の服装が優美であり、みものになるという事実が、卑・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・それは、ほんとに自然な優美な角度で、女主人のこころもちが裸婦に通っていた。その置かれかたで、女主人の背後にある裸婦の無邪気なゆたかさが、芸術としてすらりと鑑賞されるのだった。 村山知義さんの自筆の插画をみていて、わたしは、このマイヨール・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・と云う厭うべき遁辞の裡に美化しようとするのみならず、小溝も飛べない弱さを、優美とし「珍重」する男性は、その遁辞を我からあおって、自分等の優越を誇って居ります。 此等に気焔を上げてしまいましたが、とにかく、此の積極的という事は、万事に就て・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・彼が彼女を愛すれば愛するほど、彼の何よりも恐れ始めたことは、この新しい崇高優美なハプスブルグの娘に、彼の醜い腹の頑癬を見られることとなって来た。もし出来得ることであるならば、彼はこのとき、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの荘厳な肉体の価値・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・すなわち民族全体は、最も小さい子供から最も年長の老人に至るまで、その身ぶり、動作、礼儀などに、自明のこととして明白な差別や品位や優美などを現わしていた。王侯や富者の家族においても、従者や奴隷の家族においても、その点は同じであった。 フロ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫