・・・……夜になって、炎天の鼠のような、目も口も開かない、どろどろで帰って来た、三人のさくらの半間さを、ちゃら金が、いや怒るの怒らないの。……儲けるどころか、対手方に大分の借が出来た、さあどうする。……で、損料……立処に損料を引剥ぐ。中にも落第の・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・外交をして廻っていると、儲ける機会もないではなく、そしてまた何年かのちに、また新聞に二度目の秋山さんとの会合を書かれることを思えば、少しは……と思わぬこともなかったが、しかし、書かれると思えばかえって自分を慎みたい、不正なことはできないと思・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ そして、お君が賃仕事で儲ける金をまきあげた。豹一が高等学校へはいるとき、安二郎はお君に五十円の金を渡した。貰ったものだと感謝していたところ、こともあろうに、安二郎はそれを高利で貸したつもりでいたのだ。 豹一は毎朝新聞がはいると、飛・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ひとに儲けさせるのはうまいが、自身で儲けるぶんにはからきし駄目で、敢えて悪銭とはいわぬが、身につかなかったわけだ。 一方お前は、おれに見はなされたのが運のつきだったか、世間もだんだんに相手にしなくなり、薬も売れなくなった。もっとも肺病薬・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・一個八十銭の西瓜で十銭の切身何個と胸算用して、柳吉がハラハラすると、種吉は「切身で釣って、丸口で儲けるんや。損して得とれや」と言った。そして「ああ、西瓜や、西瓜や、うまい西瓜の大安売りや!」と派手な呼び声を出した。向い側の呼び声もなかなか負・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ どんなものが書けるのだろうと危ぶまれはしたが、とにかくに小説を書いて金を儲けるという耕吉の口前を信じて、老父はむり算段をしては市へ世帯道具など買いに行った。手桶の担ぎ竿とか、鍋敷板とかいうものは自分の手で拵えた。大工に家を手入れをさせ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 百姓は、稲を刈り、麦を蒔きながら、自動車をとばし、又は、ぞろ/\群り歩いて行く客を見ている。儲けるのは大阪商船と、宿屋や小商人だけである。寒霞渓がいゝとか「天下の名勝」だとか云って宣伝するのも、主に儲けをする彼等である。百姓には、寒霞・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・今にあれが銭を儲けるようになったら、借金を返えしてくれるし、うら等も楽が出来るわい。」為吉はそう云って縄を綯いつゞけた。「そんなことがあてになるもんか!」「健やんが云よったが、今日び景気がえいせに高等商業を出たらえらい銭がとれるんじ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・君のれいの商売で、儲けるぶんくらいは、その都度きちんと支払う。」「ただ、あなたについて歩いていたら、いいの?」「まあ、そうだ。ただし、条件が二つある。よその女のひとの前では一言も、ものを言ってくれるな。たのむぜ。笑ったり、うなずいた・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ついでに賭にも勝って、金を儲ける。何につけても運の好い女である。 舞台が済んで帰る時には、ポルジイが人の目に掛からないように、物蔭に、外套の領を馬鹿に高く立てて、たたずんでいる。ヒュッテルドルフまで出迎えている時もある。停車場に来ている・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫