・・・大阪へ来て文芸を談ずると云うことの可否は知りません。儲ける話でもしたら一番よかろうと思っているんですが、「文芸と道徳」では題をお聴きになっただけでも儲かりません。その内容をお聴きになってはなお儲かりません。けれども別に損をするというほどの縁・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・従って、儲けるための出版業者は、いつも「地方」を対象におき、そこで売れるためには、決して「地方的水準」を高めようとせず、それに媚び、おもねり、面白がられることを商売の上手とした。「地方巡り」という一つの文化上のタイプは出版から、娯楽から・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ラジウムが病人を治す役に立つからと云って、そこから儲けることなどマリヤには思いも及ばないことであったのです。ピエールとマリヤは科学者としての彼等の後半生の方向をきめたこの重大な相談に、僅十五分を費したきりでした。夫妻がノーベル賞を授与された・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・買いためなどの出来るのは資本家地主であり、戦争とそのために起った物価騰貴で儲けるのは即ち彼等であることを『キング』の記事は露骨に告げているのである。建国祭が近づくが、日本の専制的な支配権力が大衆を無知と無気力におくためにはどういうものを読ま・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・帝政ロシアの支配者たちは搾取に反抗されるのがこわくて、勤労者には高い税で政府が儲けることのできる火酒と坊主をあてがってばかりいた。農村、都会とも、小学校はギリシア正教の僧侶に管理された。貧農、雇女の子供は中学にさえ入れなかった。猶太人を或る・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・自分のもとでで儲ける者としこの区分に入れている。作家はおとなしくその類別に従って来た。けれども、少し考えると妙だと思える。 作家は、大部分が出版企業に結びつけられて、真の儲けは、出版屋が吸いとっている。これは明々白々である。皮肉にいえば・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・、教養の深い人々のために、純文学作品の発表・出版があり、一方では、より多くの大衆が、労働から解放されたときの気まぎらしのため、昔の庶民が寄席をたのしんだように、ごろりと寝ころがってすごす時間に読ませて儲けるようにと、いわゆる大衆小説が存在す・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ひとの儲ける金を浪費する女の感情のだらしなさが映っている。 素人の女が玄人っぽいまねをするという近頃の一部の傾向も、その機会にあたっているのである。 婦人と読書 相変らず本がよく売れている。女のひとも本をよ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・その変り方を申しますと、いろいろ面白い点がありますけれども、婦人作家のことだけに限っていえば、つまりこういう風な出版は、結局に於ては自分が金を儲けるのが眼目です。どんなに立派なことをいっても金を儲けることが目的で、婦人作家を強大にするにしろ・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・骨董で儲けるには茶器を扱って大金持の出入りとならなければ望みはない。今日日本の芸術の特徴とされている「さび」は常人の日暮しの中からは夙に蒸発してしまっていて、僅にその蒸溜のような性質のものが、茶会も或る意味でのコンツェルンであるブルジョアの・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫