・・・そして三円ぐらい手に握ると、昼間は将棋などして時間をつぶし、夜は二ツ井戸の「お兄ちゃん」という安カフェへ出掛けて、女給の手にさわり、「僕と共鳴せえへんか」そんな調子だったから、お辰はあれでは蝶子が可哀想やと種吉に言い言いしたが、種吉は「坊ん・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・三人とも、三浦君を「兄ちゃん」と呼んでいた。まず、今までは、そんな間柄なのだ。 三浦君は、ことしの十二月、大学を卒業して、すぐに故郷へ帰り徴兵検査を受けたが、極度の近視眼のために、不覚にも丙種であった。すると、下吉田の妹娘から、なぐさめ・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・三吉は、上り口のかまちに腰をかけて、ゴム長の片っ方を手にとり、しきりに困っている。兄ちゃんのお下りであるそのゴム長は三吉の足に合わせては大きく歩きにくい上に、今は傷んで水が入って来る。「困ったなア、母ちゃんたら、買ってくんないんだもの!」「・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
出典:青空文庫