・・・しかし君臣となり、親子、夫婦、朋友、師弟、兄弟となった縁のかりそめならぬことを思い、対人関係に深く心を繋いで生きるならば、事あるごとに身に沁みることが多く考え深くさせられる。対人関係について淡白枯淡、あっさりとして拘泥せぬ態度をとるというこ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 曹長は、それから、彼の兄弟のことや、内地へ帰ってからどういう仕事をしようと思っているか、P村ではどういう知人があるか、自分は普通文官試験を受けようと思っているとか、一時間ばかりとりとめもない話をした。曹長は現役志願をして入営した。曹長・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・そこで早速自分の所有のを出して見競べて視ると、兄弟かふたごか、いずれをいずれとも言いかねるほど同じものであった。自分のの蓋を丹泉の鼎に合せて見ると、しっくりと合する。台座を合せて見ても、またそれがために造ったもののようにぴたりと合う。いよい・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・私は二階の二部屋を次郎と三郎にあてがい(この兄弟は二人末子は階下にある茶の間の片すみで我慢させ、自分は玄関側の四畳半にこもって、そこを書斎とも応接間とも寝部屋ともしてきた。今一部屋もあったらと、私たちは言い暮らしてきた。それに、二階は明るい・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そこではさきほどの百姓の兄弟にあたる人が引き網をしていました。鳩は蘆の中にとまって歌いました。 その男も言いますには、「いやです。私は何より先に家で食うだけのものを作らねばなりません。でないと子どもらがひもじいって泣きます。あとの事・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・父に早く死なれた兄弟は、なんぼうお金はあっても、可哀想なものだと思います。 太宰治 「兄たち」
・・・毛皮市場や祭礼の群衆の中にわれわれの親兄弟や朋友のと同じ血が流れている事を感じさせられ、われわれの遠い祖先と大陸との交渉についての大きな疑問を投げかけられるのであった。最後のクライマックスとして、荒野を吹きまくる砂風に乗じていわゆる「アジア・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そこで私は、この晴二郎には、左に右兄弟も親類もあることでござえますから、死骸を引取らして頂いて、一ト晩だけは通夜をしてやりとうごぜえんすと、恁う申しあげましたんです。 それでまア、本郷の山本まで引取るなら、旗が五本に人足が十三人……山本・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・どの国もどの国も陸海軍を拡げ、税関の隔てあり、兄弟どころか敵味方、右で握手して左でポケットの短銃を握る時代である。窮屈と思い馬鹿らしいと思ったら実に片時もたまらぬ時ではないか。しかしながら人類の大理想は一切の障壁を推倒して一にならなければ止・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ モオパッサンはその短篇中に描いたセエヌ河の舟遊びによって、漫にわれわれの過ぎ去った学生時代を意味深く回想させ、ゴンクウル兄弟が En 18… の篇中に書いた月夜ムウドンの麗しい叙景は、蘆と水楊の多い綾瀬あたりの風景をよろこぶ自分に対し・・・ 永井荷風 「夏の町」
出典:青空文庫