画を好かぬ小供は先ず少ないとしてその中にも自分は小供の時、何よりも画が好きであった。。 好きこそ物の上手とやらで、自分も他の学課の中画では同級生の中自分に及ぶものがない。画と数学となら、憚りながら誰でも来いなんて、自分・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ 五 根本問題の所在 この小さな紙幅に倫理学の根本問題を羅列することは不可能である。しかし具体的に問題の所在を示すために二、三の例証を引くことは絶対に必要である。 先ず道徳思想と道徳との弁別の問題がある。リップスによ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 帰って、──いつも家へ着くのは晩だが、その翌朝、先ず第一に驚くことは、朝起きるのが早いことである。五時頃、まだ戸外は暗いのに、もう起きている。幼い妹なども起される。──麦飯の温いやつが出来ているのだ。僕も皆について起きる。そうすると、・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・今でも其の時分の面影を残して居る私塾が市中を捜したらば少しは有るでしょうが、殆ど先ず今日は絶えたといっても宜敷いのです。私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・死を避け得べしとも思って居ない、恐らくは彼等の中に一人でも、永遠の命は愚か、伯大隈の如くに百二十五歳まで生き得べしと期待し、生きたいと希望して居る者すらあるまい、否な百歳・九十歳・八十歳の寿命すらも、先ずは六かしいと諦らめてるのが多かろうと・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ しかし、熊吉は姉の養生園行を見合せないのみか、その翌日の午後には自分でも先ず姉を見送る支度をして、それからおげんのところへ来た。熊吉は姉の前に手をついて御辞儀した。それほどにして勧めた。おげんはもう嘆息してしまって、肉親の弟が入れとい・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ぼくの物心ついた頃、親爺は貧乏官吏から一先ず息をつけていたのですが、肺病になり、一家を挙げて鎌倉に移りました。父はその昔、一世を驚倒せしめた、歴史家です。二十四歳にして新聞社長になり、株ですって、陋巷に史書をあさり、ペン一本の生活もしました・・・ 太宰治 「虚構の春」
ウィインで頗る勢力のある一大銀行に、先ずいてもいなくても差支のない小役人があった。名をチルナウエルと云う小男である。いてもいなくても好いにしても、兎に角あの大銀行の役をしているだけでも名誉には違いない。 この都に大勢いる銀行員と云・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それよりもこうすればうまく行ける。先ず一番の基礎的な事柄は教場でやらないで戸外で授ける方がいい。例えばある牧場の面積を測る事、他所のと比較する事などを示す。寺塔を指してその高さ、その影の長さ、太陽の高度に注意を促す。こうすれば、言葉と白墨の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と、こう皆さんが夫々叮嚀な御挨拶をなすって下さる。それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござ・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫