一 倫理的な問いの先行 何が真であるかいつわりであるかの意識、何が美しいか、醜いかの感覚の鈍感な者があったら誰しも低級な人間と評するだろう。何が善いか、悪いか、正不正の感覚と興味との稀薄なことが人間として低・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・人間社会では、自覚されるされないにかかわらず、客観の事実として、そういうふうに生産と政治が、文学に先行した。そして現在そうであるし、これからもその関係は変らない。 過去のプロレタリア文学の理論は、そこまで社会の客観的現実を見る眼を開いた・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・内容としての世界観、形式としての芸術性という風な、過去の二元論に足を取られていて、芸術性というものの本来の在りようは、作品に於ける内容と形式との特殊な統一の仕方から生じるもの、芸術作品にとって芸術性は先行的にあり得るものではなくて、芸術作品・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・今日の歴史に生きるには、それに先行する時代から受けた苦しみそのものの中に沈潜して、そこから自分たちのこれからの新しい発展を辿りださねばならないという気持が、広汎にあります。そして、自分たちの経験を発展の母胎と見、それにいちおうは執しようとい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・これはヒューマニズムがそれに先行した能動的精神の提唱に比べて、はるかに我々の日常生活に於て社会的に、文化的に作用を及ぼす実践の可能を含んでいる特徴的な点である。ヒューマニズムは、ファシズムに明瞭に対立している。ファシズムの強権と横暴から人間・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・自然発生的に日本プロレタリア文学運動の先行的任務を負った「文戦」の作家たちは、ロマンチシズム、未組織な個人的センチメンタリズム、政治的行動理論の不決定さで右や左へ揺れながら、それでもある水準に達した技術で、黎明期のプロレタリア文学活動に重大・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そして、これは人類がその中で出口なしに廻転しているところの円周ではなくて、そこでは各々の後から来る円周が先行する円周よりも広汎であるところの螺旋である。吾々の世紀は十六世紀に対して、後から来る諸世紀がどういう点において十九世紀の野蛮性を見る・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
・・・だが周囲の現実は遙にそれ以前と云おうか、先行的な条件で制約されてしまっている。先ず、各国の文化、批評を活溌に交換するために必要な雑誌や書籍類の自由な国際的購読が今日では一般人にとって困難になって来ている。一般生活に必要がないと認められる種類・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・健省設立を提案するという興味ある形で今日とりあげられている青年男女の体格低下の問題や、婦人労働者の退職手当金の問題、又頻々たる心中事件の意味など、恋愛論が、恋愛論の枠の中を廻っていただけでは解決し得ぬ先行的事情が、附随してとりあげられなけれ・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
出典:青空文庫