先頃、友情というものについてある人の書かれた文章があった。その中にニイチェの言葉が引用されている。「婦人には余りにも永い間暴君と奴隷とがかくされていた。婦人に友情を営む能力のない所以であって、婦人の知っているのは恋愛だけで・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
この雑誌の読者である方々くらいの年頃の少女の生活は、先頃まではあどけない少女時代の生活という風に表現されていたと思います。そしてそれは、そう言われるにふさわしい、気苦労のない、日常生活の進行は大人にまかして、自分達は愉快に・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
つい先頃、或る友人があることの記念として私に小堀杏奴さんの「晩年の父」とほかにもう一冊の本をくれた。「晩年の父」はその夜のうちに読み終った。晩年の鴎外が馬にのって、白山への通りを行く朝、私は女学生で、彼の顔にふくまれている・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・つい先頃の総選挙のとき、三合配給などを公約した候補者について、選挙が終ってからすぐ、新聞社が、三合配給の公約をどうするか、という題目で質問しました。すると、三合配給の公約はしない、現在二合一勺を確保すると云っただけだという答や、「俺は知らん・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・ 先頃の新響の「悲愴」は、そういう意味での観念でかたちづくったスラブ的なものにこだわらず、音をつかんで音の息づいている生命の流れに従っていて、あれだけ音楽として独特の美を発揮させたと思える。チャイコフスキーの生粋な芸術家としての創作の力・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 米 一月十日現在として全国の供出米が割当のやっと二割八分しか集まらなかったことが報じられている。先頃、中国地方の田舎を旅行したときも、話題は供出米が中心となった。自主的に米を供出している村の人たちで営団にその・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ これらの写真にのぼされている女の生活の姿は、昨今歳暮気分に漲って、クリスマスのおくりものや、初春の晴着の並べられている街頭の装飾と、何という際立った対照をなしている事であろう。 先頃前進座で「噛みついた娘」という現代諷刺喜劇が上演・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・昭和五年と云えば、つい先頃のことだが、その年の全国町村長会議は、婦人公民権案反対を決議した。翌六年満州事変が始ってから、あらゆる婦人参政権獲得に関する運動は、軍事目的のために圧倒され、婦選案などは議会にとり上げられさえもしなくなって来た。そ・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・これはファウストには限らない。先頃沼波武夫君は一幕物の中のサロメの誤訳を指摘してくれられた。近比伊庭孝君は同書の中の痴人と死との誤訳を指摘してくれられた。それ等も改版の折に訂正したく思っている。十三 私は誤訳をしたのを、苦心・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・それが日本で興行せられるからは、分からず屋の数が一層大きいかも知れない。先頃日本に来られたオイゲン・キュウネマンさんはある宴会の席で私に言われた。「ファウストの思想は所詮日本人には解せられまいと云う人がある。あなたが訳したと云うのが、事実上・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫