・・・ 午後になると、妹の光子さんが、先に帰ってきました。それからまもなく、次郎さんのくつ音がして、元気よく、「ただいま。」といって、帰ってきました。ちょうど、お母さんは外出なされてお留守でありました。次郎さんは、机が上にあった鉛筆をとり・・・ 小川未明 「気にいらない鉛筆」
・・・と、光子さんはなみだぐみました。 子ちょうはにげようと思って、はばたきをしました。「わたし、お父さんからもらった小刀をあげるから、にがしておやり。」と、光子さんはいいました。「ほんとうにくれる。じゃ、にがしてやるよ。」 子ち・・・ 小川未明 「花とあかり」
・・・と言って、一頃はよく彼女のところへ遊びに通って来た近所の小娘もある。光子さんといって、幼稚園へでもあがろうという年頃の小娘のように、額のところへ髪を切りさげている児だ。袖子の方でもよくその光子さんを見に行って、暇さえあれば一緒に折り紙を・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
三十七年の夏、東圃君が家族を携えて帰郷せられた時、君には光子という女の児があった。愛らしい生々した子であったが、昨年の夏、君が小田原の寓居の中に意外にもこの子を失われたので、余は前年旅順において戦死せる余の弟のことなど思い・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
一 網野さんの小説集『光子』が出たとき私共はよろこび、何か心ばかりの御祝でもしたいと思った。出版記念の会などというものはなかなか感情が純一に行かないものだし、第一そういう趣味は網野さんから遠い故、・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・「こっちは光子さん」 自分の肖像 対照 大掃除 サイドボードを動かす 上の下らぬ大額をおろす。買い手が見つけられるから。「あれを買うって?」「本当?」「本当!」「へーえ、あれお父様ただ貰ったんだろう?・・・ 宮本百合子 「生活の様式」
・・・この作品は第一作品集『秋』から『光子』『妻たち』『汽車の中で』『若い日』その他二十余年の間つみ重ねられてきたこの作家の、日本的な苦悩をさかのぼって照し出す感動的な一篇であった。このつましい、まじめな婦人作家は、永年にわたって彼女の一貫した題・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 小さい門、リラの茂、薄黄色模様の絹の布団、ジャケツ、黄色のクッションにもたれて欧州婦人のジェスチュアをする五十五歳の光子クーデンホフ夫人。 宮本百合子 「無題(八)」
出典:青空文庫