・・・それ故に母親が自から改めなければ、強権の力を頼んでも試験勉強の如きを廃して、幾百万の児童を救ってもらいたいと思うのであります。 お母さんだけが、いつの場合にでも、子供のほんとうの味方でありましょう。そのお母さんが、もし子供の人格を重んぜ・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・けれど、階梯として何うしても児童等は嫌いなものも、好きなものと、同時に強いられる教育状態にある。私は、これ等の学校を卒業して、社会へ子供達が出た時に、学校生活がどれだけ役立ち、また、彼等を幸福ならしむるかと考えさせられるのであるが、これなど・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
思想問題とか、失業問題とかいうような、当面の問題に関しては、何人もこれを社会問題として論議し、対策をするけれど、老人とか、児童とかのように、現役の人員ならざるものに対しては、それ等の利害得失について、これを忘却しないまでも、兎角、等閑・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ しかし、かくのごときものは、児童等の知識の進むに従って、満足することができなくなった。この欠陥と不満は、すでに従来のお伽噺や、童話について感じられたことであって、児童の読物を科学的のものに引戻せという声は、その反動的のあらわれと見・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ もう一つ、これと連想するものに、児童の問題があります。 長い間、児童等の生活は、その責任と義務を、家庭と学校に委して、社会は、深く立入ることなくして過ぎて来ました。就中、家庭において、支配する者の意志と感情が、直接支配される者・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・その島の小学児童は毎朝勢揃いして一艘の船を仕立てて港の小学校へやって来る。帰りにも待ち合わせてその船に乗って帰る。彼らは雨にも風にもめげずにやって来る。一番近い島でも十八町ある。いったいそんな島で育ったらどんなだろう。島の人というとどこか風・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・ 七里の途はただ山ばかり、坂あり、谷あり、渓流あり、淵あり、滝あり、村落あり、児童あり、林あり、森あり、寄宿舎の門を朝早く出て日の暮に家に着くまでの間、自分はこれらの形、色、光、趣きを如何いう風に画いたら、自分の心を夢のように鎖ざしてい・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・あえて望むはその感得の児童の際のごとからんことなり。 あの時は山羊のごとく然り山野泉流ただ自然の導くままに逍遙したり。あの時は飛瀑の音、われを動かすことわが情のごとく、巌や山や幽なる森林や、その色彩形容みなあの時においてわれを刺激するこ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・小学校の教員はすべからく焼塩か何にかで三度のめしを食い、以て教場に於ては国家の干城たる軍人を崇拝すべく七歳より十三四歳までの児童に教訓せよと時代は命令しているのである。 唯々として自分はこの命令を奉じていた。 然し母と妹との節操を軍・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・平常のように平気の顔で五六人の教師の上に立ち数百の児童を導びいていたが、暗愁の影は何処となく彼に伴うている。 二 富岡先生が突然上京してから一週間目のことであった、先生は梅子を伴うて帰国って来た。校長細川は「今・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
出典:青空文庫