・・・行の節は御用込合順番札にて差上候儀は全く無類和かに製し上候故御先々様にてかるかるやきまたは水の泡の如く口中にて消候ゆゑあはかるやきかつ私家名淡島焼などと広く御風聴被成下店繁昌仕ありがたき仕合に奉存製法入念差上来候間年増し御疱瘡流行の折ふし御・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・それについて入念な――“Eternal Prostitution”“Periodical Prostitution”“Five yen a time”というような言葉までできていた。彼はその事について、恵子にたずねた。恵子は――「そんなこと・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・一つ一つ入念にしらべてみたか。いや、いちいちその研究発表を、いま、ここで、せずともよい。いずれ、大論文にちがいない。そうして、やっぱり、言葉でなければいけないか。音ではだめか。アクセントでは、だめか。色彩では、だめか。みんな、だめか。言葉に・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・まあ例えば地味な色糸で繍った玉繍いのように粒一つが入念な筆致と、そのユーモアとが結びついて澄んだ心の境地を示している場合、小さい作品でも味が深い。同じ集の中の「海」などという沈んだちっとも上皮のきらつかない美がある。 ・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・重吉は、入念に新聞をよみ、紙を出して何かノートを書きつけ、その間には荒れている庭を眺めて、「あの樽、何か埋めていたのかい」 掘りだしたまま、まだ槇の樹の下にころがされている空樽に目をとめたりした。西日のさす側の枝から見事に紅葉しかけ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫