・・・ 近在は申すまでもなく、府中八王子辺までもお土産折詰になりますわ。三鷹村深大寺、桜井、駒返し、結構お茶うけはこれに限る、と東京のお客様にも自慢をするようになりましたでしょう。 三年と五年の中にはめきめきと身上を仕出しまして、家は建て・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・さて立川からは多摩川を限界として上丸辺まで下る。八王子はけっして武蔵野には入れられない。そして丸子から下目黒に返る。この範囲の間に布田、登戸、二子などのどんなに趣味が多いか。以上は西半面。 東の半面は亀井戸辺より小松川へかけ木下川から堀・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・』『それでどちらへお越しでございますナ。』『八王子へ行くのだ。』 と答えて客はそこに腰を掛け脚絆の緒を解きにかかった。『旦那、東京から八王子なら道が変でございますねエ。』 主人は不審そうに客のようすを今さらのようにながめ・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・何だか不吉な予感を覚えた。八王子あたりまでは、よく晴れていたのだが、大月で、富士吉田行の電車に乗り換えてからは、もはや大豪雨であった。ぎっしり互いに身動きの出来ぬほどに乗り込んだ登山者あるいは遊覧の男女の客は、口々に、わあ、ひどい、これあ困・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・その電話は八王子管理部から国警本部へ入ったものであるが、この電話の「入手径路は捜査されていない」。この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹の交番に警官は一人も・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・市内のある工廠で一挙に数百人の女工を求めて来たので、市の紹介所は、小紡績工場の操短で帰休している娘たちを八王子辺から集めて、やっとその需要にこたえた状態である。 さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そして十月二十四日、五日と月末の二度に八王子地検の相川判事によって他被告との関係について「宣誓の上供述して」それを調書にとられた。第一回公判をひかえた十一月二日に竹内被告は、思想を異にする弁護人を希望しないという理由で自由法曹団の人々をこと・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・二人は八王子市のメーデーに行くのであった。 残念なことに、体の工合がよくなくて私は行進に加わることはできない。けれども、時刻を見はからって、東京駅の横から日本橋へでる街角へ行った。 ちょうど、もう行進がはじまっている。宮城前広場から・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・三峯山に登っては、三峯権現に祈願を籠めた。八王子を経て、甲斐国に入って、郡内、甲府を二日に廻って、身延山へ参詣した。信濃国では、上諏訪から和田峠を越えて、上田の善光寺に参った。越後国では、高田を三日、今町を二日、柏崎、長岡を一日、三条、新潟・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫