・・・当時宮本は公判廷に出ても席に耐えないでベンチの上に横になる程疲労していたが、公判は続行された。すでに他の同志たちは分離公判が終結していた。被告宮本ただ一人、傍聴者は弁護士と妻と看守ばかりという法廷であった。戦争に気を奪われ左翼の存在を忘れさ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・つき当りの板テーブルに、重吉よりはおくれて宮城から出獄した仲間の一人がいた。公判廷でみたときよりももっとやせて、一層角のついた正八角形という顔の感じである。ひろ子は、その手を執って挨拶した。さっきの男二人は、入れちがいに出てゆき、重吉が、・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・さもなければ国際裁判の公判廷で、東條英機がどうしてあのように卑劣ないいまわしで今日もなお戦争の責任を否定し、確信ありげにファシズムの宣伝をしたろう。このジェスチュアは東條自身にとって、一層世界の憎悪を集め、検事団の道義的憤怒をそそった。その・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・労働者ウラソフが公判廷で行う演説は、説教者くさいところもある。プロレタリア解放運動の問題を、この作品でゴーリキイは経済的・政治的基礎においてとりあげず、むしろ道徳や、美の問題と混同してさえいるのである。では、「母」は一つの失敗の作であろうか・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫