・・・こういう意味から言えば、新聞記事に現われた除幕式は純然たる概念的公式的の除幕式であって、甲のものと、乙のものとは人名などの活字面が少しちがうだけであって、どれもこれも具象的内容においては全く同じものである。それだから、記者が列席もしないのに・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・に関する統計などには、純粋な物質的の問題たとえばコロイド粒子の密度の場合に応用さるる公式を、そのまま使用しても立派に当てはまることが実証的に明らかになっている。平田理学士は、先年、某停車場の切符売り場の窓口に立ち寄る人の数に関する統計的調査・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・そしてその対象は直接間接に人間的なものと考え、顔や挙動や境遇や性格やの滑稽になるための条件公式あるいは規約のようなものをいくつも、科学的に言えばかなり大胆に持ち出してはそれを実例と対照させ説明している。それを基礎として喜劇というものが悲劇な・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・なお敷衍していえば、あなた方はまず公式を頭の中に入れて、その application が必要である。それは人間が考えたものに違いないけれども、私がこのものがいやだといっても御免蒙ることはできない。universal ということは perso・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・の所有者にとつては、あの幾何学公式のやうな書体で書かれた「純粋理性批判」の第一頁を読むだけでも、独逸的軍隊教育の兵式体操を課されたやうで、身体中の骨節がギシギシと痛んで来る。カントは頭痛の種である。しかし一通り読んでしまへば、幾何学の公理と・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・いう男が、ニューヨークには、ほかの日本人労働者も学生も商人もいるであろうのに、それらとはちっともかかわりなく、またアメリカの労働者、その前衛とも何の有機的結合をも示さず、ひたすらアメリカの子供に向って公式的な宣伝教育をしてはせっせとピオニイ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・婦人部オルグのメーラなどは、まるで公式的に戦時共産時代からの性関係の形を自身うけついで暮している。 インガが、ドミトリーとのことを話し、彼の妻子について彼女が気を重くしていることを云ったら、長椅子の上へ寝ころびながら、メーラは口笛を吹き・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 王女の生活の公式の面と私的な面とは、右の手と左の手のようなもので、聖書の文句にあるとおり、右手のなすところを左手にしらしむるなかれという関係におかれているのだろうか。 こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 過去の若かった左翼の運動の日本的特徴の一つとしてあげられる素朴な英雄主義・公式主義と云われたものを発生させていた社会的原因そのものが、敗北に際しては裏がえしとなって現われた。一定のイデオロギーに対する人間的弱さ、箇性の再発見、インテリ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・――滑稽だな、遙々第一公式で出かけて来て、こんなものを食べさせられるんじゃあ」「食い辛棒落胆の光景かね」「いやなひと!」 三人は、がらんとした広間の空気に遠慮して低く笑った。「寂しくって、大きな声で笑いも出来ない。いやんなっ・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
出典:青空文庫