・・・こういう工合に、子供たちと仲がいゝのだから、その子供たちの親たちとも仲のいゝのは不思議はない。僕等の間では、今に菊池は町会議員に選挙されはしないかという噂さえある。 今まで話したような事柄から菊池には、菊池の境涯がちゃんと出来上がってい・・・ 芥川竜之介 「合理的、同時に多量の人間味」
・・・私たち三人は丁度具合よくくだけない中に波の脊を越すことが出来ました。私たちは体をもまれるように感じながらもうまくその大波をやりすごすことだけは出来たのでした。三人はようやく安心して泳ぎながら顔を見合せてにこにこしました。そして波が行ってしま・・・ 有島武郎 「溺れかけた兄妹」
・・・そんな工合に、目や胸を見たり、金色の髪の沢を見たりしていて、フレンチはほとんどどこへ何をしに、この車に乗って行くのかということをさえ忘れそうになっている。いやいやただ忘れそうになったと思うに過ぎない。なに、忘れるものか。実際は何もかもちゃん・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・お道具は揃ったけれど、何だかこの二階の工合が下宿のようじゃありませんか。」 四「それでもね、」 とあるじは若々しいものいいで、「お民さんが来てから、何となく勝手が違って、ちょっと他所から帰って来ても、何だ・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・なんだ腹の工合がわるい、……みっちりして仕事に掛かれば、大抵のことはなおってしまう。この忙しいところで朝っぱらからぶらぶらしていてどうなるか」「省作の便所は時によると長くて困るよ。仕事の習い始めは、随分つらいもんだけど、それやだれでもだ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・三味の音が浪の音に聴えたり、浪の音が三味の音に聴えたり、まるで夢うつつのうちに神経が冴えて来て、胸苦しくもあったし、また何物かがあたまの心をこづいているような工合であった。明け方になって、いつのまにか労れて眠ってしまったのだろう、目が醒めた・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・夏目さんは気むずかしい黙っている人だとやらに平生聞いていたから会いたいとは思いながら、ついその時まで見合せていたような具合で……。初めて会った時だってわざわざ訪ねて行ったのではなかったが、何かの用で千駄木に行ったが、丁度夏目さんの家の前を通・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・息苦しくて、眼は開いているが、如何しても口が利けないし、声も出ないのだ、ただ女の膝、鼠地の縞物で、お召縮緬の着物と紫色の帯と、これだけが見えるばかり、そして恰も上から何か重い物に、圧え付けられるような具合に、何ともいえぬ苦しみだ、私は強いて・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・ 夜雨戸を閉めるのはいずれ女中の役目だろう故、まえもってその旨女中にいいつけて置けば済むというものの、しかしもう晩秋だというのに、雨戸をあけて寝るなぞ想えば変な工合である。宿の方でも不要心だと思うにちがいない。それを押して、病気だからと・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・それをば片一方の眼で視ているので、片一方のは何か堅い、木の枝に違いないがな、それに圧されて、そのまた枝に頭が上っていようと云うものだから、ひどく工合がわるい。身動を仕たくも、不思議なるかな、些とも出来んわい。其儘で暫く経つ。竈馬の啼く音、蜂・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
出典:青空文庫