・・・彼は老父たちにさえそうした疑念を抱かせないような具合にして、いつの間にかするりと家を脱けていたんだからね、よほど悧巧なところがある」「そりゃ惣治さんの方は苦労してるからあなたとは違いますとも。だからあなたもいっそ帰ってなぞこなければよか・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・何だか身体の具合が平常と違ってきて熱の出る時間も変り、痰も出ず、その上何処となく息苦しいと言いますから、早速かかりつけの医師を迎えました。その時、医師の言われるには、これは心臓嚢炎といって、心臓の外部の嚢に故障が出来たのですから、一週間も氷・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・地形がいい工合に傾斜を作っている原っぱで、スキー装束をした男が二人、月光を浴びながらかわるがわる滑走しては跳躍した。 昼間、子供達が板を尻に当てて棒で揖をとりながら、行列して滑る有様を信子が話していたが、その切り通し坂はその傾斜の地続き・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ 水車は川向にあってその古めかしい処、木立の繁みに半ば被われている案排、蔦葛が這い纏うている具合、少年心にも面白い画題と心得ていたのである。これを対岸から写すので、自分は堤を下りて川原の草原に出ると、今まで川柳の蔭で見えなかったが、一人・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・「どういう具合になっとるんです?」 健二は顔を前に突き出した。――今年は不作だったので地子を負けて貰おう。取り入れがすんですぐ、その話があったのは彼も知っていた。それから、かなりごた/\していた。が、話がどうきまったか、彼はまだ知ら・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・そんなら本紀列伝を併せて一ト月に研究し尽すぞ」という豪傑が現われる。そんな工合で互に励み合うので、ナマケル奴は勝手にナマケて居るのでいつまでも上達せぬ代り、勉強するものはズンズン上達して、公平に評すれば畸形的に発達すると云っても宜いが、兎に・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・自分では興奮も何もしていないと云っていたし、身体の工合も顔色も別にそんなに変っていなかったが、約一年目に出てきたシャバは、矢張り知らずに彼を興奮させていたのだろう。 これは、田口の話である。別に小説と云うべきものでもない。 ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・どうも自分の身体の具合が好くないと思い思いして、幾度となく温泉地行なぞを思い立ったのも、もうあの頃からだ。けれども彼女が根本からの治療を受けるために自分の身体を医者に診せることだけは避け避けしたのは、旦那の恥を明るみへ持出すに忍びなかったか・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・この窓ガラスにはもう一つ変わった所があって、ガラスのきざみ具合で見るものを大きくも小さくもする事ができるようになっておりました。だからもし大きなむすこが腹をたてて帰って来て、庭先でどなりでもするような事があると、おばあさんは以前のような、小・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ けれども、其那工合には行きません。それは出来ないことでした。真個にそれ等の事も出来ないと云うのではありませんが、スは、水の世界パタルプールの宮殿へ生れないで、バニカンタの家に生れて仕舞いました。其ですから、彼女は、どうしたらゴサインの息子・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫