・・・円暁を男妾にしていたと云う事、その頃は夫人の全盛時代で金の指環ばかり六つも嵌めていたと云う事、それが二三年前から不義理な借金で、ほとんど首もまわらないと云う事――珍竹林主人はまだこのほかにも、いろいろ内幕の不品行を素っぱぬいて聞かせましたが・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・こっちから訊きもしないのに何故こんな内幕咄をするのか解らなかったが、一と月ばかり経って公然入社の交渉を受けた時初めて思い当った。この交渉は相互の事情でそれぎりとなったが、緑雨と私との関係はそれが縁となって一時はかなり深く交際した。 尤も・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・私はある時郷国の小学校に就て其の内幕をみるの機会を得たのであるが、其の風儀の壊廃は実に驚くに堪えたるものであった。それは矢張り政党等の内幕にあるような実情問題であった。何れの社会でも今日の状態ではきたない事はある。それが小学校に於て児童の事・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・ 一年ばかり、そこの記者衆を乗せて、出先と社の玄関を往復している間に、彼等の内幕やコツをすっかり覚えこんでしまったある雨の日、急に丹造の野心はもくもくと動きだして、よし、おれも一番記者になって……と、雨に敲かれた眼にきっと光を見せたが、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・しかし、料理屋を開くには、もう少し料理屋の内幕や経営法を知って置いた方がよい。そう思って口入屋の紹介で住込仲居にはいった先がたまたま石田の店であった。石田は苦味走ったいい男で、新内の喉がよく、彼女が銚子を持って廊下を通ると、通せんぼうの手を・・・ 織田作之助 「世相」
・・・なかなか探せぬと思っていたところ、いくらでも売物があり、盛業中のものもじゃんじゃん売りに出ているくらいで、これではカフェ商売の内幕もなかなか楽ではなさそうだと二の足を踏んだが、しかし蝶子の自信の方が勝った。マダムの腕一つで女給の顔触れが少々・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・と称する部類に編入され、カフェーの内幕話や、心中実話の類と肩をならべ、そうしていわゆる「創作」と称する小説戯曲とは全然別の繩張り中に収容されているようである。これはもちろん、形式上の分類法からすれば当然のことであって、これに対して何人も異議・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかし故人がそういう方面の内幕話に興味を有ち、またそういう材料の供給者を有っていた事はたしかである。 子規は世の中をうまく渡って行く芸術家や学者に対する反感を抱くと同時に、また自分に親しい芸術家や学者が世の中をうまく渡る事が出来なくて不・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・ 若主人が家に一切の事をする様になってあまりしらなかった内幕に立ち入って見ると、父親の名で小千の金が借りてある。 相手が悪いものではないので幾分安心はした様なものの、こんなものまで自分について居てはやりきれないと云う様に、どうしてこ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・の革命を織り込み、ソヴェト同盟の劇場の内幕を諷刺したりしている。カーメルヌイ劇場で、タイーロフが未来派じみた極めて派手で綺麗な舞台装置で上演した。 この劇中劇ではソヴェト同盟の劇場でも、小道具なんかに凝りすぎ、ウンと金をかけてしまったの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫