・・・ ところで、作中の梅雄が学生運動の最も盛んであった時期に経験した内的成長の過程を語る部分に、次のようなところがある。「梅雄は理論的にはこの主義に何の反対も見出さなかった。ばかりでなく、これより他に……さえ信じていた。それでいて、その・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・箇人の内的運命と外的運命とが、どんなに微妙に、且つ力強く働き合って人の生涯を右左するかと思うと、自分は新しい熱心と謙譲とで、新に自分の前に展開された、多くの仲間、道伴れの生活の奥の奥まで反省し合って見度く思う。自分が人及び女性として、漸々僅・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはいられません。 私には、たとい良人の形体は地上から消滅しても、彼の全部は、皆、彼との結婚後更生した自己の裡に、確に、間違いなく生きているのだ、という全我的の信仰、安住も持ち得ないのです。 現在、私・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ バルザックが或時代の或タイプを描いたという評言を後生大事にかついでおまもりのように云っている人があるが、或タイプといってもそれは社会的活動の関係の中で立体的に描かれなければならないので、型として、内的外的活動を規定の枠内で行為させている・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
今年一年、特に後半は、私にとって、内的に、深く種々の変動あり、感銘を受けた時でした。却って一々の題目を見ると、どれにもあてはめるものがない心持が致します。〔一九二二年十二月〕・・・ 宮本百合子 「今年心を動かした事」
・・・その経過に於いては内的の発表を意識しないで、其時代を形造って来た人もあるでしょう。私共の祖母、母などは、私共が反省しつつ自分の時代を造り上げているのと違って、只単に一種のシンボルとして一時代の変遷の跡を表わして来てはいたでしょうが、それが正・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・この段階は経過したものとして、今日作家が自身の成長としての変りを希うとき、自身のうちにどんな内的な契機がつかまれて行ったらいいのだろうか。 十一月の文芸時評で、平野謙氏が、日本の自然主義以来の文学伝統の分析からこの点にふれ、作家が何によ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・一定のイデオロギーに対する人間的弱さ、箇性の再発見、インテリゲンツィア・小市民としての出生への再帰の欲望などが内的対立として分裂の形で作品にあらわれ、傷いた階級的良心の敏感さは、嘗てその良心の故に公式的であったものが今や自虐的な方向への拍車・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・同時に、ブルジョア文化は今日深刻な内的矛盾を持っている。 なるほど、ブルジョア文化も封建時代の文化に対抗して自然科学の力を正面に押し出して闘った初期においては、確かに進歩的な大きな役割を持っていた。封建時代よりは、より広汎な大衆の利害を・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・胤子の感情の必然性も十分描かれていないし、全体が説明的で、それもいきいきと納得ゆくように一人の人間の内的推移の跡を示しているとはいえないのである。 作者の意企は、魚住を中心として、感化院の教師間の生活葛藤を描くところにあったことは明瞭な・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
出典:青空文庫