・・・散文と詩とを、アランのようなポイントから外的なもの内的なものとしていない。唯受動的に自己自身と他からの働きかけの間の調整を求めるもの、ただ合図の叫びとして在るのではなく、散文は自己と外からのものとの間から生れた更に新しい一つの人生的な価値を・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・日本の市民一般のおかれていた教養の低い水準のままに作家の内的世界も肯定された形をとらざるを得なかったと見られる。 夏目漱石の文学、森鴎外の文学及び、漱石系統の帝大などを出た新しい作家たちの作品が、知識人の間に広く反響をもったのは、一方に・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・モチーフを、「作家の内的要求が、テーマの直観的な端緒を」とらえるものとして理解することは、私たちの心の具体的なありように即している。「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・、三十歳のジイドの苦悩は、日夜自分の極めて知識人風な内的生活の探求の裡に棲んで、「汝は何ものかに役立たんと欲している」。だが、自分が役立ちたいのは何もののためであるか、それがはっきり掴めない焦燥と不安とであった。 作家としてのジイドを三・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ すべて、人間が自分の内的生命を注ぎ出して書くものには必ずその人の調子と云うものがある。思想的傾向とか、主要観念とかいうものの他、その人の心理的なテンポ、硬度、音波がある。媒介物である文字さえ文法的に正確に捕えたら、その作物の全リズムま・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・新感覚的表徴は少くとも悟性によりて内的直感の象徴化されたものでなければならぬ。即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観からのみ触発された経験的外的直感のより端的な認識表徴であらねばならぬ。従って官能・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ここに何ものを犠牲にしても自己を表現しないではいられない切迫した内的必然が伴なって来る。次にはこの深い精神内容をイキナリ象徴によって表現し得る素質がなければならぬ。象徴を捕える異様な敏感、自己を内より押し出そうとする内的緊張、あらゆる物と心・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・ ある内的必然によって意志を緊張させた場合を想像する。喩えて言えば、ある理想のために重い石を両手でささげるのである。腕が疲れる。苦しくなる。理想の焔に焼かれている者は、腕がしびれても、眼が眩んでも、歯を食いしばってその石をささげ続ける。・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
・・・さはあれわが保つ宝石の尊さを知らぬ人は気の毒を通り越して悲惨である、ただ己が命を保たんため、己が肉欲を充たさんために内的生命を失い内的欲求を枯らし果つるは不幸である。この哀れむべき人の中にさらに歩を進めたる労働者を見よ。尊き内的生命を放棄し・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫