・・・多少の再度の内省と分析とはあっても、たしかにこのとおりその時心象の中に現われたものである。ゆえにそれは、どんなに馬鹿げていても、難解でも必ず心の深部において万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・然し、今、静かに、厳しい内省を自分自身に加える時、私はこれ等のことごとを畏怖なしに考えることは出来ません。 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。 私の全心にとっ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・しかし、その率直な表現はよいとして筆者は生活に向ってゆく自分の勝気というものを自分でどう内省していられるでしょうか。それから又、年期を中途で去った弟子に対して怒る自分の心持を、仕立屋商売という立場の利害からせめてはいくらかなりともふみ出した・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・ けれどもこんな内省は、たといト翁ほど偉大ではなく性格の点で全然異った型に属する者でも、創作のことに携るものとなれば、大なり小なり、幾度ずつか経験していることではないだろうか。 芸術家の個性により、微妙な色と角度との差異はあっても等・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・ 昭和十四年度の文学の総決算というとき、多くの人によって、この二三年混乱していた文学がやや落付いて来た、内省的になって来たと云われていた。それは或る意味では実際に即した概括であったと思う。けれども、内省的ということも、主として各作家の主・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・学習院の運営は宮内省からきりはなされ、自主的にされなければならなくなっていること。これらすべての今日の現実を、漱石に理解させることができたとして、彼はどういうテーマで講演するだろう。 やっぱり漱石は、権力・金力に対して毅然たるべき人間性・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・後の困難な諸事情は、そういう人々の、いずれかと言えば受動的な勇気を挫き、昂奮の後の感傷や過度な内省を誘い出した。由来一つの大衆的な運動というものが、真の精鋭のみの小団結ではなく、そのものの周囲に幅広く種々雑多の人間を引きつれて、塵埃も残滓も・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 素人の文学ということが評価にのぼる場合、そこには、文学の技術に於てこそ素人であれ、生活人としての敏感さ、文学以外の専門における透徹性或はその社会的行動への内省においては、決してマイナスのもののないことを、それどころか生活的な意味の明瞭・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・の短評では、「私」を出して書いているので作品として成功しがたかったと云われていたと覚えているが「私」を出したことそれ自身に問題があるのではないと思う。「私」と作者の腹のなかとが実はちぐはぐで、「私」の内省と苦悩とが真に読者の肺腑をつく態の真・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ けれども、各個人の実際の内省によると、必ずしも一般論の上から危期とされる時期が自己の運命には、さほど重大さを持たなかった場合もあるらしく見えます。却って、学理などの一向挙示していない年代に一人の一生にとっては見逸すべからざる動揺の生じ・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫