・・・直径百メートルもあるかと思う円周の上を走って行くその円の中心と思う辺りを注意して見るとなるほどそこに一羽の鳥が蹲っている。そうしてじっと蹲ったままで可愛い首を動かして自分のまわりをぐるぐる廻って行く不思議な人影を眺めているようである。その人・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・もっとも幾何学などで中心から円周に到る距離がことごとく等しいものを円と云うというような定義はあれで差支ない、定義の便宜があって弊害のない結構なものですが、これは実世間に存在する円いものを説明すると云わんよりむしろ理想的に頭の中にある円という・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・そして、これは人類がその中で出口なしに廻転しているところの円周ではなくて、そこでは各々の後から来る円周が先行する円周よりも広汎であるところの螺旋である。吾々の世紀は十六世紀に対して、後から来る諸世紀がどういう点において十九世紀の野蛮性を見る・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
出典:青空文庫