・・・見ると帽子は投げられた円盤のように二、三間先きをくるくるとまわって行きます。風も吹いていないのに不思議なことでした。僕は何しろ一生懸命に駈け出して帽子に追いつきました。まあよかったと安心しながら、それを拾おうとすると、帽子は上手に僕の手から・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・たとえば蓄音機円盤が出勤簿レジスターの円盤にオーバーラップするとか、あるいはしわくちゃのハンケチを持った手を絞り消して絞り明けると白いばらの花束を整える手に変わる。あるいは室内のトランクが汽車の網棚のトランクに移り変わるような種類である。と・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・円形の要素としては蓄音機の円盤、工場の煙突や軒に現われるレコードのマーク。工場の入り口にある出勤登録器のダイアル。それから昼顔の花もかすかにこれに反映するものである。直線運動としては囚徒や職工の行列、工作台上の滑走台、ジュアンヌの机の前の壁・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
一 電車停留場のプラットフォームに「安全地帯」と書いた建札が立っている。巌丈な鉄棒の頂上に鉄の円盤を固定したもので、人の手の力くらいでは容易に曲げ動かすことが出来ないように出来ている。それが、どうし・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ ガラスなどの円盤の中央をたたくと、それがある整数だけのほぼ同大の扇形に割れる。これについては前に鈴木清太郎君の研究がある。これもある点では金米糖の問題と似た点もあり、またある点では「弾性的不安定」の問題とも関係しているように見える。・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・その後にサムナー・テーンターやグラハム・ベルらの研究によって錫箔の代わりに蝋管を使うようになり、さらにベルリナーの発明などがあって今日のグラモフォーンすなわち平円盤蓄音機ができ、今ではこれが世界のすみずみまで行き渡っている。もしだれか極端に・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
出典:青空文庫