・・・ 僕ハ迚モ君ニ再会スルハ出来ヌト思ウ。万一出来タトシテモ其時ハ話モ出来ナクナッテルデアロー。実ハ僕ハ生キテイルノガ苦シイノダ。僕ノ日記ニハ「古白曰来」ノ四字ガ特書シテアル処ガアル。 書キタイハ多イガ苦シイカラ許シテクレ玉エ。 ・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』中篇自序」
・・・ ―――――――――――――――――――― ピエエル・オオビュルナンとマドレエヌ・ジネストとは再会せずにしまった。この詭遇の影に傷けられた、大家先生の自負心の創痕はいつか癒えて、稀にではあるが先生が尊重の情をもっ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・娘さんがひとすじに愛する人との再会を確信し、それを待っている心持、それはその頃のわたしが生きている毎日の心持そのものであった。だけれども、戦争は惨酷であり、日本中には幾千人が同じようにあつい心で待っているか知れない、その人々の生命と愛情とを・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・三つの時、母に死に別れた自分は、林町の母に対して、真実我が母に再会するような期待、愛の希望を以て戻った。処が事実はどうだろう。彼女は、何から何までを批評的に見られる。決して打ち解けない。而も、自分にとっては、真に真に思いも設けない絶交まで申・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ そう云って別れたロマーシとゴーリキイが再会したのはそれから十五年後、ロマーシが「民衆の意志」党の事件でヤクーツクで更に十年の流刑を終ってからのことであった。 秋になってから、ゴーリキイは村を去りカスピ海の岸「汚いカルムイッツの漁場・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 宇平、文吉が姫路の稲田屋で九郎右衛門と再会したのは、天保六年乙未の歳正月二十日であった。丁度その時広岸山の神主谷口某と云うものが、怪しい非人の事を知らせてくれたので、九郎右衛門が文吉を見せに遣った。非人は石見産だと云っていた。人に怪ま・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それを聞いたるんは、喜んで安房から江戸へ来て、竜土町の家で、三十七年振に再会したのである。 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・門出の時、世良田の刀禰が和女にこを残して再会の記念となされたろうよ。それを見たらよしない、女々しい心は、刀禰に対して出されまい。和女とて一わたりは武芸をも習うたのに、近くは伊賀局なんどを亀鑑となされよ。人の噂にはいろいろの詐偽もまじわるもの・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・それは玉王の前に連れ出されたときの親子再会の喜びをできるだけ強烈ならしめるためであろう。しかも作者は、この再会の喜びをも、実に注意深く、徐々に展開して行くのである。まず玉王は、連れ込まれて来た老夫婦をながめて、それらを縛り上げている役人たち・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫