・・・つまり一つの同じ景色を、始めに諸君は裏側から見、後には平常の習慣通り、再度正面から見たのである。このように一つの物が、視線の方角を換えることで、二つの別々の面を持ってること。同じ一つの現象が、その隠された「秘密の裏側」を持っているということ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・黙語氏が一昨年出立の前に秋草の水画の額を一面餞別に持て来てこまごまと別れを叙した時には、自分は再度黙語氏に逢う事が出来るとは夢にも思わなかったのである。○去年の夏以来病勢が頓と進んで来て、家内の者は一刻も自分の側を離れる事が出来ぬように・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・多少の再度の内省と分析とはあっても、たしかにこのとおりその時心象の中に現われたものである。ゆえにそれは、どんなに馬鹿げていても、難解でも必ず心の深部において万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・二十歳の女の人生をその習慣や偏見のために封鎖しがちな中流的環境から脱出するつもりで行った結婚から、伸子は再度の脱出をしなければならなかった。世間のしきたりから云えば十分にわがままに暮しているはずの伸子がなぜその上そのように身もだえし、泣き、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・新聞は、もう再度の文化暴圧にたいして、発言しなかった。進歩的な作家たちも、それについて理性からの批判は示しえなかった。舟橋聖一氏がこの間発表した「毒」という小説は、作品としては問題にするべきいくつかの点をもっているけれども、あのころ、わが身・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 十六日には筒井から再度の呼出が来た。酉の下刻に与力仁杉八右衛門の取調を受けて、口書を出した。 この日にりよは酒井亀之進から、三右衛門の未亡人は大沢家から願に依って暇を遣された。りよが元の主人細川家からは、敵討の祝儀を言ってよこした・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫