・・・その場合、その勤人は、勤め先そのものの機械性、冷血に苦しむ苦しさを、組合としての要求の中に一部吐露しうる。苦しむ市民的自分はそこで複雑となり、勤労者としてのわれわれという表現をとる。昔のプロレタリア文学は、そこでハピー・エンドであった。今日・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・沁々考えてみると、そういう共通な不幸に感じを鈍くさせられて生きている生活の条件の荒っぽさ、冷血さはおそろしいと思う。更にもう一歩すすんで生活を観察すると、貧困といい病といい、それを受ける人の身が男であるか、女であるかということで、同じうち克・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・働組合の力が強くなり、社会の勤労が直接働く人のためのものとなれば、みんなが組合に属して働いている人であるから、社会全体としてそれを保護するということになれば、個人個人が、自分の人間らしさとひきかえに、冷血になったり、利己的になったりしないで・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・失業を増大させるしか手腕をもたない冷血貪慾な支配者たちは、彼らを生んだ母なる性の屈辱をもって自身の穢辱をさらしているといえるのである。 精神と肉体との愛における統一と、そのあらわれとして貞潔がある場合、その自然さ、よろこび、平安の深さは・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・こういう看護婦というものがどんな不徳、冷血、不潔でおそろしいものであったかディッケンズの小説によく描き出されている。病院の看護婦といえば、風紀のみだれたもの、という代名詞のように思われていた。酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ 村民の経済事情が悪化し剥脱されてゆく過程、市会議員の利権あさり、官僚的冷血、自然発生的に高まりやがて無気力な怨嗟にかわってゆく村民の心持の推移などを、作者は恐らく実地にあたって調査した上で書いているのであろう。龍三や安江などの性格化、・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 農場主の妻デロア夫人の冷血さ、息子アンリイに対するマリイの感情、こういういきさつはしばしば小説の中に描かれている。「テス」にしろ、ブロンテの「ジェーン・エーア」にしろ傑作といわれている文学作品はかつて同じ人生の局面を描いたが、オオドゥ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫