・・・ 二 病室には、汚れたキタならしい病衣の兵士たちが、窓の方に頭を向け、白い繃帯を巻いた四肢を毛布からはみ出して、ロシア兵が使っていた鉄のベッドに横たわっていた。凍傷で足の趾が腐って落ちた者がある。上唇を弾丸で横にか・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・なかのものは次々と凍傷を起して行った。 お前の母ばかりでなしに、沢山の母たちが毎日のように警察に出掛けて行ったが、母はそこでよく子供を負んぶした労働者風のおかみさんと会った。最初はどこの係りにやってくるのか分らなかったが、そのうち特高室・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ ブルッ、と手で顔を撫でると、全で凍傷の薬でも塗ったように、マシン油がベタベタ顔にくっついた。そのマシン油たるや、充分に運転しているジャックハムマーの、蝶バルブや、外部の鉄錆を溶け込ませているのであったから、それは全く、雪と墨と程のよい・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ 話しの合間合間に交えられる手振も徳田さん独特だし、その手の指には網走の厳しい幾冬かが印した凍傷の痕があるのである。大いに笑う彼の顔を見て、一緒に大笑いしずにいることは困難であろう。 或る演説の中で、徳田さんは、日本婦人の一般は、本・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
出典:青空文庫