・・・え方は人生の広き経験なき者にはむしろ淋しいことであるが、あのチェホフのような博大な人生観やまたヴィルドラックのような現実の理解ある暖かき社会観もあるのであって、必ずしもすべての人に厳格な突きつめた身の処分を要すべきものではない。まして大乗仏・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
近時世界の耳目を聳動せる仏国ドレフューの大疑獄は軍政が社会人心を腐敗せしむる較著なる例証也。 見よ其裁判の曖昧なる其処分の乱暴なる、其間に起れる流説の奇怪にして醜悪なる、世人をして殆ど仏国の陸軍部内は唯だ悪人と痴漢とを・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・役場では、その決闘と云うものが正当な決闘であったなら、女房の受ける処分は禁獄に過ぎぬから、別に名誉を損ずるものではないと、説明して聞かせたけれど、女房は飽くまで留めて置いて貰おうとした。 女房は自分の名誉を保存しようとは思っておらぬらし・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・差し当りこの包みをどうにか処分しなくてはならない。どうか大地震でもあってくれればいいと思う。何もベルリンだって、地震が揺ってならないはずはない。それからこういう事も思った。動物園へ行って、河馬の咽へあの包みを入れてやろうかと云うのである。し・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・そして見当り次第に箸でつまんで処分していた。人間の立場からどうもこうしなければ仕方がないのである。 真円く拡がった薔薇の枝の冠の上に土色をした蜥蜴が一疋横たわっていた。じっとしていわゆる甲良を干しているという様子であった。しかしおそらく・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・なんだかやっと安心したような気がしたがはたして売れたのか、あるいはあまり売れないのでどうにか処分されたのか、それもわからないと思った。 六階にあったいわゆる空中庭園は、近ごろ取り払われて、今ではおもちゃの陳列所になっている。一階から五階・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・るも、大名はすなわち大名にして毫も譲るところなかりしも、畢竟瘠我慢の然らしむるところにして、また事柄は異なれども、天下の政権武門に帰し、帝室は有れども無きがごとくなりしこと何百年、この時に当りて臨時の処分を謀りたらば、公武合体等種々の便利法・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・明治四十二年三月二十二日 露都病院にて長谷川辰之助長谷川静子殿長谷川柳子殿 遺族善後策これは遺言ではなけれど余死したる跡にて家族の者差当り自分の処分に迷うべし仍て余の意見を左に記す・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・ただこの後の処分がどうであろうという心配が皆を悩まして居る内に一週間停船の命令は下った。再び鼎の沸くが如くに騒ぎ出した。終に記者と士官とが相談して二、三人ずつの総代を出して船長を責める事になった。自分も気が気でないので寐ても居られぬから弥次・・・ 正岡子規 「病」
出典:青空文庫