・・・それはあなたが一しょに山へ来て下さるのは、わたしも嬉しいが、なぜ出し抜けに頼んだのです。なぜわたしに相談しません」 姉の顔は喜びにかがやいている。「ほんにそうお思いのはもっともだが、わたしだってあの人の顔を見るまで、頼もうとは思っていな・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・「なんだねえ。出し抜けに袖にぶら下がるのだもの。わたしびっくりしたわ。」お松もこうは云ったが、足を止めた。「あの、ひゅうひゅうと云うのはなんでしょう。」「そうさねえ。梯子を降りた時から聞えてるわねえ。どこかここいらの隙間から風が・・・ 森鴎外 「心中」
・・・それからわたくしが料理屋の門口から往来へ出て、辻馬車を雇おうと思いますと、あなたが出し抜けにわたくしの側へ現れておいでなすったのですね。男。ええ。そうでした。貴夫人。そして内へ送って往ってやろうとおっしゃったのですね。男。ええ。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・エルリングが肩の上には、例の烏が止まって今己が出し抜けに来た詫を云うのを、真面目な顔附で聞いていたが、エルリングが座を起ったので、鳥は部屋の隅へ飛んで行った。 エルリングは椅子を出して己を掛けさせた。己はちょいと横目で、書棚にある書物の・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫