・・・ 一つ、次の最初の停車場へ着いた時、――下りるものはなかった――私の居た側の、出入り口の窓へ、五ツ六ツ、土地のものらしい鄙めいた男女の顔が押累って室を覗いた。 累りあふれて、ひょこひょこと瓜の転がる体に、次から次へ、また二ツ三ツ頭が・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・は目も耳も指も切り取って、あらゆる外界との出入り口をふさいで、そうして、ただ、生きていることと、考えることとだけで科学を追究し、自然を駆使することができるのではないかという空想さえいだかせられる恐れがある。しかし、それがただの夢であることは・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ 牧場の周囲に板状の岩片を積んだ低い石垣をめぐらし、出入り口にはターンパイクがこしらえてあった。日当たりのいい山腹にはところどころに葡萄畑がある。そして道ばたにマドンナを祭るらしい小祠はなんとなく地蔵様や馬頭観世音のような、しかしもう少・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫