・・・この明白な事実すら理解しないらしい監督の作品に時々出会うのに驚かされるのである。 このような影像の間欠的なことに起因するフィルムの世界の特異性も、現在では利用されようとはせず、かえってむしろできるだけ避けようとして、そのほうに苦心が費や・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・委細かまわず着手してみると存外指摘された難関は楽に始末がついて、指摘されなかった意外な難点に出会うこともある。 頭のよい人は、あまりに多く頭の力を過信する恐れがある。その結果として、自然がわれわれに表示する現象が自分の頭で考えたことと一・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・また科学者がこのような新しい事実に逢着した場合に、その事実の実用的価値には全然無頓着に、その事実の奥底に徹底するまでこれを突き止めようとすると同様に、少なくも純真なる芸術が一つの新しい観察創見に出会うた場合には、その実用的の価値などには顧慮・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 西洋を旅行している間に出会う黄色い顔をした人間が日本人であるかシナ人であるかを判断する一つの簡単な目標は写真機をさげているかいないかであるといった人がある。当否は別としておもしろい話である。いったい日本人ぐらいいわゆる風景に対して関心・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・年を経ておもしろい事にも出会うたが、あのころ珍しい虫を見つけて捕えた時のような鋭い喜びはまれである。今でも城山の奥の茂みに蒸された朽ち木の香を思い出す事ができるのである。いつか城山のずっとすそのお堀に臨んだ暗い茂みにはいったら、・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ 英語やドイツ語とだんだんに教わるうちに、しばしば日本語とよく似た音をもった同義の語に出会う事がある。これは偶然であろうとは思っても、そのことごとくが偶然の暗合であるという事を証明する事もかなりにむつかしそうに思われた。 自分のまだ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・例えばある人の自殺の動機などについて驚くべき無理解な叙述に出会う事がしばしばある。これに反して著名な作家の作品を見れば如何にこれらの場合における描写が科学的に普遍で必然だと思われるように表われているかが分るだろう。そればかりでなく如何に多く・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ それはとにかく、もしもわれわれが音源の距離方向を判断する能力が非常に鋭敏であったら、トーキーというものはたいへんやっかいな問題に出会うであろうが、そうでないのは幸いである。しかし上記のような耳と目との空間知覚性の差別は、トーキー製作者・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・それはいずこも松の並木の聳えている砂道で、下肥を運ぶ農家の車に行き逢う外、殆ど人に出会うことはない。洋服をきたインテリ然たる人物に行逢うことなどは決してない。しかし人家はつづいている。人家の中には随分いかめしい門構に、高くセメントの塀を囲ら・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・足にギプスをはめた小学三年ぐらいの少年が一人いてよく出会うのだが、朝のこんな人波その中のギプス姿は、私をいろいろの回想に誘うこともある。今はまるで壮健で子供の親になっている弟も五つ六つの頃はギプスをはめて歩いていたりしたのであったから。・・・ 宮本百合子 「新入生」
出典:青空文庫