・・・ちょうど汀の銀の蘆を、一むら肩でさらりと分けて、雪に紛う鷺が一羽、人を払う言伝がありそうに、すらりと立って歩む出端を、ああ、ああ、ああ、こんな日に限って、ふと仰がるる、那須嶽連山の嶺に、たちまち一朶の黒雲の湧いたのも気にしないで、折敷にカン・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・――夜泣松というのが丘下の山の出端に、黙った烏のように羽を重ねた。「大分上ったな。」「帰りますか。」「一奮発、向うへ廻ろうか。その道は、修善寺の裏山へ抜けられる。」 一廻り斜に見上げた、尾花を分けて、稲の真日南へ――スッと低・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・眼に見えるようなは其而已でなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端の蓊鬱と生茂った山査子の中に、居るわい、敵が。大きな食肥た奴であった。俺は痩の虚弱ではあるけれど、やッと云って躍蒐る、バチッという音がして、何か斯う大きなもの、トサ其時は思わ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 横丁の出端れの米屋の前にも祝出征の旗が立った。ここでは店先を片づけて、人出入りも多く、それが今度出てゆく若主人らしい人が、店先で親類らしい中年者と立ち話をしたりしている。そこには緊張して遑しい仕度の空気が漲っていた。米屋の商売も、全く・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
出典:青空文庫