・・・仕事に対する父の愛が減ったのではなく、仕事について父の分担が年を経るままに変って来たのでした。そのことを、私は一度も父には直接申しませんでしたが、自分の心の中では或る避けがたい悲しみとして鋭く感じていました。文学と建築という仕事の質の相異と・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・男と女とのまじりけない人間評価により立つ愛に対して、分担された責任である互の貞操は、先ず恋愛において、あらゆる社会的矛盾によってゆすぶられている。結婚も、互に選択するという欧州の表面の自由は、そのかげに、経済的利害の打算をふくんでいる。月給・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・「婦人の家庭に対する分担持場が違って来たら、世の中はどうなるだろう」と云って、彼女を家庭生活にのみ繋うとします。彼女は、決然とそれに対し、男が父親であるとともに自由に邪魔されず仕事を持ち続ける通り女性も母であると同時に家庭生活に煩わされず自・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 会合がすむとすぐ下の炊事場で、これらの人たちが分担している活動がはじまった。台の下やその他の隅々はまだ真新しいコンクリート床で、みんながきまって盛に往来するところだけ泥あとのついた炊事場で、ポンプをくみ上げる音、薪をわる音がおこった。・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・小川代議士の質問にちっともそういう面がとりあげられなかったのは、他の代議士との質問の分担上の関係からであったのだろうか。 質問に答えるために米内首相が再び登壇したが、それに対する議場の雰囲気は、米内首相にしろ、これまで海軍大臣として・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・ 女がその生涯の終りに、自分が女であることの歓喜に包まれて死ねるように生きたいと希う心は激しくつよいのであるが、女としてのよろこび、悲しみの自覚のむこう側にはいつも分担者としての男がなければならず、更に大きい背景として当代の男女を活かし・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・当り前の分担事務の外に、字句の訂正を要するために、余所の局からも、木村の処へ来る書類がある。そんなのも急ぎでないのはこの中に這入っている。 書類を持ち出して置いて、椅子に掛けて、木村は例の車掌の時計を出して見た。まだ八時までに十分ある。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・への奉仕とともに、真実の人類への奉仕であることを、そうしてそれが自己の任務づけられた、自己の分担し得る人類への奉仕であることを、明白に自覚している。この自覚を岸田君は切実なる内生の告白として表現しているのである。 美への奉仕はすなわち人・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫