・・・この合流点を通った後に俳諧は再び四方に分散していくつもの別々の細流に分かれたようにも思われる。 一方において記紀万葉以来の詩に現われた民族的国民的に固有な人世観世界観の変遷を追跡して行くと、無垢な原始的な祖先日本人の思想が外来の宗教や哲・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・これはたぶんあとの母音は振動数の多い上音に富むため、またそういう上音はその波長の短いために吸収分散が多く結局全体としての反響の度が弱くなるからではないかと考えてみた事がある。ともかくもこの事と、鸚鵡石で鉦や鈴や調子の高い笛の音の反響・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・それは雑音の中に含まれるいろいろな波長の音波が、それぞれ回折や分散の模様のちがうために起こる現象である。 トーキーの場合には、実際の音の音色は決してそのままに記録され複製されない。それは録音ならびに発音器械の不完全から来る欠点である。そ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・幸にして今日に及びようやく旧に復するの模様あれども、空しく二年の時日を失い、生徒分散、家屋荒廃、書籍を失い器械を毀ち、その零落、名状するに堪えず。あたかも文学の気は二年の間窒塞せしが如し。天下一般の大損亡というべし。先にこの開成所をして平人・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・強請して小規模で分散的な副業に止めておこうとする理由は「集団作業の心理状態には被傭人の気持が多く、共同作業場あるいは家庭工業には農業精神が横溢している」とされているのである。 これまでも、日本の女は、実に労を惜しまず、雑多な歴史の荷・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・南露に分散していた「赤のパルチザン」は、ブジョンヌイの第一騎兵隊の噂をきき、猟銃をかつぎ黒パンを入れた袋をかついで次から次へと集って来た。 広大なソヴェト同盟内の各地方ソヴェトは、南方でも、シベリアでも勇敢な農民パルチザンと赤衛軍との血・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 彼等は、上野の山で解散したデモのくずれが、各所で狼火のような分散デモを行うことを、かくも戦々兢々と恐怖していたのである。 自分は初め、何のために高等へ出しておかれたのか分らなかった。初めは恐らく自分に日本の発達した警察網の活動ぶり・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・後篇の前半を占めるこの部分は地球の到るところで、分散させられながらよりよく生きようとして力をつくしているすべての人間の目に、希望とよろこびの涙を浮ばしめるのである。 観察力のすぐれた読者は、そして皮肉が人生に何事かを決すると思い違いをし・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・とか種々の委員会への分散的吸収にまかせざるを得なくなって、この夏、新体制の声とともに、婦選獲得同盟は十八年の苦闘の歴史を閉じて解消してしまったのであった。 婦選の動きが日本にあってはこのように見るも痛々しい浮沈をくりかえして、公民権さえ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 日本における民主主義文学運動の過程はけっして平坦でありえないし、まして、会そのものと各会員の経済事情が逼迫していて、どうしても文学運動としての密度が分散させられがちです。各人の文学上の活動が既成ジャーナリズムのうちに散発します。このさ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫