・・・そうでなくとも、また暴虐な征服者の一炬によって灰にならなくとも、自然の誤りなき化学作用はいつかは確実に現在の書物のセリュローズをぼろぼろに分解してしまうであろう。 十年来むし込んでおいた和本を取り出してみたら全部が虫のコロニーとなって無・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 雷電の怪物が分解して一半は科学のほうへ入り一半は宗教のほうへ走って行った。すべての怪異も同様である。前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・次には、この元素が化合して種々の言語や文章が組成されているが、これらの間にはその化合分解の平衡に関するきわめて複雑な方則のようなものがあると想像する。なおこれらの元素は必ずしも不変なものではなくて、たとえば放射性物質のごとく、時とともに自然・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・勘づいて内省の結果だんだん分解の歩を進めて見ると、なるほど形式の方にはそれだけの手落があり、抜目があると云うことが判然して来るべきです。だからして中味を持っているものすなわち実生活の経験を甞めているものはその実生活がいかなる形式になるかよく・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・すなわちこの二種の文学についてどこが道徳的でどこが芸術的であるかを分解比較して一々点検するのであります。こうすれば文芸と道徳の関係が一層明暸になるのみならず、また浪漫自然二文学の関係もまた一段と判然するだろうと思います。第一、浪漫派の内容か・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・もっとも心理学者のやる事は心の作用を分解して抽象してしまう弊がある。知情意は当を得た分類かも知れぬが、三つの作用が各独立して、他と交渉なく働いているものではありません。心の作用はどんなに立入って細かい点に至っても、これを全体として見るとやは・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・いわんや彼の西洋諸大家の理論書を窺い、有形の物理より無形の人事に至るまで、逐一これを比較分解して、事々物々の原因と結果とを探索するにおいてをや。読てその奥に至れば、心事恍爾としてほとんど天外に在るの思をなすべし。この一段に至て、かえりみて世・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・仮令ば蛋白質をば少しく分解して割合簡単な形の消化し易いものを作る等であります。 第二に食事は一つの享楽である菜食によってその多分は奪われるとこれはやはり肉食者よりのお考であります。なるほど普通混食をしているときは野菜は肉類より美味しくな・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・とにかく豚はすぐあとで、からだを八つに分解されて、厩舎のうしろに積みあげられた。雪の中に一晩漬けられた。 さて大学生諸君、その晩空はよく晴れて、金牛宮もきらめき出し、二十四日の銀の角、つめたく光る弦月が、青じろい水銀のひかりを、そこらの・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・キャナライゼーションが「全人格を分解する作用をもっていて」「自分では自分で判断していると思っているのだけれど、しらずしらずに、あるいは単純な感覚反応を示している中に、一つの支配勢力によって動かされているメカニズムの中にひきこまれる可能性をも・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
出典:青空文庫