・・・潮流の工合で、南洋からそういう植物をのせたまま浮島が漂って来て、大仕掛の山葵卸のようなそれ等の巖のギザギザに引っかかったまま固着したのか、または海中噴火でもし、溶岩が太平洋の波に打たれ、叩かれ、化学的分解作用で変化して巖はそんな奇妙なものと・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ 現代のように錯綜し緊張し、処々ではもう火をふき出している歴史の大摩擦の時期に当って、かつて或る才能を証明し得た作家が、歴史の本質を把握し得ないために、どんなに猛烈な自己分解を行うものであるかという、深刻な典型の一つを、ジイドは身を・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・而も、一方は無限の視覚、聴覚、味覚を以て細かく 細かく、鋭く 鋭くと生存を分解する、又組立てる。 考 創作をするにも種々な動機があると思う。或人はイブセンの如く燃え立つ自己の正義感と理想とに・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
一九二一年の十一月十四日、自分は不図、自分等の小さい家庭生活の記録を折にふれて書きつけて行く気になった。 或年まで生活し、後、振返って其経験を分解し、観察して見ることは、勿論興味あることだろう。然し、そうではなく、幾年・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・自分の心が唸りを立てるほどに漲って来る感じ、強烈な、盲目的な感じを、静かに分解し、解剖して、感じの起された原因を探ったり、批評したりすることはとうてい出来ないのである。 そういうことに出会うごとに彼女はどうしようにも仕方のない情けなさと・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・のような脱出の角度と形態は、その会にあつまった人々に種々の試練を与えて成長させるか、或いは空中分解をさせてしまうかするであろうほかに、直接その会に関係をもっていない一般の人たちに、多くの問題を示唆する。そして、たとえ「雲の会」そのものが地上・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・封建的な恋愛、結婚、家庭生活の重みに反撥することから、進歩的見解をもつ若い人々が我知らず機械的唯物論に陥ったり、アナーキスティックな放縦へ墜落したりすることの多い現代の分解的・醗酵的雰囲気の中では、このことは特に大切であると思われる。 ・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・ 平和のために、という字に乗ってあらわれる暴力や分解作業、勤労する人民の生活条件の切り下げなどを、わたしたちは、はっきり、真の平和のために必要なことと区別して理解しなければならないと思う。 不幸にも日本の男女は、これまでただの一度も・・・ 宮本百合子 「わたしたちは平和を手離さない」
・・・見ていると、大空から急降下爆撃で垂直に下って来た新飛行機は、栖方の眼前で、空中分解をし、ずぼりと海中へ突き込んだそのまま、尽く死んでしまった。 また別の話で、ラバァウルへ行く飛行中、操縦席からサンドウィッチを差し出してくれたときのこと、・・・ 横光利一 「微笑」
・・・この動作は人の自然な歩き方を二つの運動に分解してその一々をきわ立てたものである。従って有機的な動き方を機械的な動き方に変質せしめたものと見ることができる。この表現の仕方は明白に自然的な生の否定の上に立っている。そうしてそれが一切の動作の最も・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫