・・・入口に近い机の上では、七条君や下村君やその他僕が名を知らない卒業生諸君が、寄附の浴衣やら手ぬぐいやら晒布やら浅草紙やらを、罹災民に分配する準備に忙しい。紺飛白が二人でせっせと晒布をたたんでは手ぬぐいの大きさに截っている。それを、茶の小倉の袴・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・今僕が公平な分配をしてやるから。これで公平だろう。沢本 四つに分けてどうするんだ。瀬古 最後の一片はもちろん僕たちの守護女神ともちゃんに献げるのさ。僕はなんという幻滅の悲哀を味わわねばならないんだ。このチョコレットの代わりにガラ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・菓子が三人に分配される、とすぐに去ってしまう、風の凪いだようにあとは静かになる。静かさが少しく長くなると、どうして遊んでるかなと思う。そう思って庭を見ると、いつの間にか三人は庭の空地に来ておった。くりくり頭に桃色のへこ帯がひとり、角子頭に卵・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・と、勇ちゃんが、がんばると、「ずるいや、お母さん、公平に分配してくださいね。」と、二郎さんが、叫びました。「お母さんは、いつも、公平に分配するじゃありませんか。」 このとき、二郎さんが、メートル尺を持ってきたので、みんなは、笑い・・・ 小川未明 「お母さんはえらいな」
・・・ でも、慰問袋は、一人に三個ずつ分配せられた。フンドシや、手拭いや、石鹸ばかりしか這入っていないと分っていても、やはり彼等は、新しく、その中味に興味をそゝられた。何が入れてあるだろう? その期待が彼等を喜ばした。それはクジ引のように新し・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 又、三人の泥棒が、その縄張り地域の広狭から、それを公平に分配することを問題にして、喧嘩を始めたらどうであるか。如何に正義、人道を表面に出して、自己の行為を弁護しようとも、それは、泥棒自身の利益のために、人を欺くものである。而も、現在、・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ その時になって、私は初めて分配のことを簡単に二人の子供に話したが、次郎も末子も半信半疑の顔つきであった。 自動車は坂の上に待っていた。私たちは、家の前の石段から坂の下の通りへ出、崖のように勾配の急な路についてその細い坂を上った・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・シルレルの詩に、「地球の分配」という面白い一篇がありますが、その大意は、凡そ次のようなものであります。「受取れよ、この世界を!」と神の父ゼウスは天上から人間に号令した。「受取れ、これはお前たちのものだ。お前たちにおれは、これを遺産と・・・ 太宰治 「心の王者」
・・・一箇の釜は飯が既に炊けたので、炊事軍曹が大きな声を挙げて、部下を叱して、集まる兵士にしきりに飯の分配をやっている。けれどこの三箇の釜はとうていこの多数の兵士に夕飯を分配することができぬので、その大部分は白米を飯盒にもらって、各自に飯を作るべ・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ もし出来るならば、多数の歌人が銘々に口調のいいと思う歌を百首くらいずつも選んで、それらの材料を一纏めにして統計的に前述の波数や波長の分配を調べてみたら何かしら多少ものになるような結果が得られはしないかと考えるのである。 このような・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
出典:青空文庫