・・・その度ごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。音頭取が一つ拍子を狂わせるとたちまち怪我人が出来るそうである。 映画の立廻りの代りにこの「花取り」を入れて一層象徴化されたる剣の舞を見せたらどうかと思うのである。その方がま・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 一本の麻縄に漸次に徐々に強力を加えて行く時にその張力が増すに従って、その切断の期待率は増加する。しかしその切断の時間を「精密に」予報する事は六かしい、いわんやその場処を予報する事は更に困難である。 地震の場合は必ずしもこれと類型的・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 無数の葉の一つ一つがきわめて迅速に相次いで切断されるために生ずる特殊な音はいろいろの事を思い出させた。理髪師の鋏が濃密な髪の一束一束を切って行く音にいつも一種の快感を味わっていた私は、今自分で理髪師の立場からまた少しちがった感覚を味わ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
いつかある大新聞社の工場を見学に行ってあの高速度輪転機の前面を瀑布のごとく流れ落ちる新聞紙の帯が、截断され折り畳まれ積み上げられて行く光景を見ていたとき、なるほどこれではジャーナリズムが世界に氾濫するのも当然だという気がし・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 単細胞動物のようなものでは個体を切断しても、各片が平気で生命を持続することができるし、もう少し高等なものでも、肢節を切断すれば、その痕跡から代わりが芽を吹くという事もある。しかし高等動物になると、そういう融通がきかなくなって、針一本で・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・北海道のひぐまも虎と同様で、東北日本の陸地の生まれたとき津軽海峡はおそらく陸でつながっていたのではないかと思われるが、それがその後の地変のために切断してそれが潮流のために広く深く掘りえぐられた、それから後にどこかからひぐまが蝦夷地に入り込ん・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・「年賀はがきの一束は、自分というものの全生涯の一つの切断面を示すものである。人間対人間の関係というものがいかに複雑多様なものであるかを示す模型のようなものである。人情と義理と利害をXYZの座標とする空間に描きだされた複雑極まりない曲面の・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・ 俳諧は截断の芸術であることは生花の芸術と同様である。また岡倉氏が「茶の本」の中に「茶道は美を見いださんがために美を隠す術であり、現わす事をはばかるようなものをほのめかす術である」と言っているのも同じことで、畢竟は前記の風雅の道に立った・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・前後を截断して、過去未来を失念したる間にただギニヴィアの形のみがありありと見える。 機微の邃きを照らす鏡は、女の有てる凡てのうちにて、尤も明かなるものという。苦しきに堪えかねて、われとわが頭を抑えたるギニヴィアを打ち守る人の心は、飛ぶ鳥・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・ 題目の性質としては一気に読み下さないと、思索の縁を時々に切断せられて、理路の曲折、自然の興趣に伴わざるの憾はあるが、新聞の紙面には固より限りのある事だから、不都合を忍んで、これを一二欄ずつ日ごとに分載するつもりである。 この事情の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫