・・・秋山は子供を六人拵えて、小林は三人拵えて、秋山は稍ずるく、小林は掘り出した切り株の如く「飛んでもねえ世の中」を渡っていた。「何て、やけに吹きやがるんだ! 畜生」 小林はそう云って、三尺鑿の先の欠けた奴を抛りだした。 秋山は運転を・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・九十八の足さきというのは、九十八の切株だろう。それがどうしたというんだ。おれはちゃんと、山主の藤助に酒を二升買ってあるんだ。」「そんならおれにはなぜ酒を買わんか。」「買ういわれがない」「いや、ある、沢山ある。買え」「買ういわ・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・子で話す児C 考え深い様な静かな声と身振りの児 場所小高い丘の上、四辺のからっと見はらせる所 時夏の夕暮に近い午後B、Cが丘の中程の木の切り株に並んで腰をかけて、編物をして居る・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ 木の切り株 栃木県の矢板のステーションのすぐそばの杉林の一部が思い切り長く切りはらわれて居た。 田か畑にするらしい。 まだ新らしい生々とした香りの高そうな木の切り株が短かい枯草の中から頭を出して居る。何でも・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ その熱と、その水とに潤されて、地の濃やかな肌からは湿っぽい、なごやかな薫りが立ちのぼり、老木の切株から、なよなよと萌え出した優雅な蘖の葉は、微かな微かな空気の流動と自分の鼓動とのしおらしい合奏につれて、目にもとまらぬ舞を舞う。 こ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
月の冴えた十一月の或る夜である。 二羽の鴨が、田の畔をたどりたどり餌を漁って居る。 収獲を終った水田の広い面には、茶筅の様な稲の切り株がゾクゾク並んで、乾き切って凍て付いた所々には、深い亀裂破れが出来て居る。 ・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・先生自分で鞭を持って、ひゅあひゅあしょあしょあとかなんとか云って、ぬかるみ道を前進しようとしたところが、騾馬やら、驢馬やら、ちっぽけな牛やらが、ちっとも言うことを聞かないで、綱がこんがらかって、高粱の切株だらけの畑中に立往生をしたのは、滑稽・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫