・・・私はその時に不図気付いて、この積んであった本が或は自分の眼に、女の姿と見えたのではないかと多少解決がついたので、格別にそれを気にも留めず、翌晩は寝る時に、本は一切片附けて枕許には何も置かずに床に入った、ところが、やがて昨晩と、殆んど同じくら・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・ゆりならずや幸助をいかにせしぞ、わが眠りし間に幸助いずれにか逃げ亡せたり、来たれ来たれ来たれともに捜せよ、見よ幸助は芥溜のなかより大根の切片掘りだすぞと大声あげて泣けば、後ろより我子よというは母なり。母は舞台見ずやと指さしたまう。舞台には蝋・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・ 色彩をぬきにして浮世絵というものを一ぺんばらばらにほごしてしまうと、そこに残るものは黒白のさまざまな切片といろいろの形状をした曲線の集団である。こうしてほごした材料を一つ一つ取り出して元の紙の上にいろいろに排列してみる。するとそこにで・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ 上手と下手の相違はだいたい何事でも言葉では言い現わせないところにあり、メーターで測れないところにあるのが通例であるが、これらの映画の切り換えのリズムは一つ一つの相次ぐフィルム切片の駒数を数えて、その数字を適当に図示し曲線でも作ってみれ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 新東京の街路や河岸に立って、ありとあらゆる異種の要素の細かい切片の入り乱れた光景を見るときに、私は自然に日本帝国の地質図を思い出す。いろいろの時代のいろいろの火成岩や水成岩が実に細かいきれぎれになってつづれの錦を織り出している。この事・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ こんな空想に耽りながら見ていると、簑の上に隙間なく並んでいる葉柄の切片が、なんだかこの隠れた小哲学者の書棚に背皮を並べた書物ででもあるような気がした。 この簑について思い出すのは、私が子供の時分に、母か誰かに教わったままに、簑虫の・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫