・・・ 日本人は西洋人のように自然と人間とを別々に切り離して対立させるという言わば物質科学的の態度をとる代わりに、人間と自然とをいっしょにしてそれを一つの全機的な有機体と見ようとする傾向を多分にもっているように見える。少し言葉を変えて言ってみ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・しかしかくのごとくして出来た科学の別天地はもともと便宜上から所知者を切り離して出来たものであるから、問題が能知者との関係にわたる場合には科学の範囲を脱して、科学ばかりではもう始末の付かぬ事は明らかである。この点に対する誤解から種々な謬見が生・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・それはちょうど大河の堤を切り放したように、生命への欲望が一度に汎濫した。と思うと大きな恐ろしいうなり声のようなものが聞こえて目をさました。 二三日前にある友人とガリレーやブルノやデカルトの話をした。そうして、学説と生命とを天秤にかけた三・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・由来この種の雅致は或一派の愛国主義者をして断言せしむれば、日本人独特固有の趣味とまで解釈されている位で、室内装飾の一例を以てしても、床柱には必ず皮のついたままの天然木を用いたり花を活けるに切り放した青竹の筒を以てするなどは、なるほど Roc・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・文学と自然主義の文学とが等しく道徳に関係があって、そうしてこの二種の文学が、冒頭に述べた明治以前の道徳と明治以後の道徳とをちゃんと反射している事が明暸になりましたから、我々はこの二つの舶来語を文学から切り離して、直に道徳の形容詞として用い、・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・するとこの一種の関係に対して吾人は因果の名を与えるのみならず、この関係だけを切り離して因果の法則と云うものを捏造するのであります。捏造と云うと妙な言葉ですが、実際ありもせぬものをつくり出すのだから捏造に相違ない。意識現象に附着しない因果はか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・どんなオリヂナルの人でも、人から切り離されて、自分から切り離して、自身で新しい道を行ける人は一人もありません。画かきの人の絵などについて言っても、そう新しい絵ばかり描けるものではない。ゴーガンという人は仏蘭西の人ですが、野蛮人の妙な絵を描き・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・やはりその人々は親子関係における基本的人権についての理解は古いままで、親の方だけ切離して社会問題に取上げて判定されたような分裂が起ってきやしないか。つまりこういうような殺人事件、詐欺とか強盗、そういう事件では社会の責任を指摘するでしょう。し・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・などが好評を博したことによって、もし疾病、不具などだけを階級的な見地から切り離して文学に描く風潮が生じるようなことがあれば、警戒されなければならないであろう。私は、この作者の次の作品を、興味をもって待とうと思う。〔一九三四年十月〕・・・ 宮本百合子 「入選小説「毒」について」
・・・ 私たちの結婚は、結婚とか、恋愛とか、そう云うものを、単にそう云うものとして、私たちの生活から切り離して考えるのではなく、結婚も恋愛も、私たちの生活の、仕事の一部分として、仕事によって結ばれるのでなければなりません。お互いの階級的立・・・ 宮本百合子 「働く婦人の結婚と恋愛」
出典:青空文庫