・・・もしもこの生徒が入学中に十露盤の稽古したることならば、その初歩に廃学するも、雑用帳の〆揚げぐらいは出来て、親の手助けにもなるべきはずなるに、虎の画を学んで猫とも犬とも分らぬもののできたるさまなり。つまり猫ならばはじめから猫を学ぶの便利にしか・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・物理生理衛生法の初歩より地理歴史等の大略を知るは固より大切なることにして、本草なども婦人には面白き嗜みならん。殊に我輩が日本女子に限りて是非とも其智識を開発せんと欲する所は、社会上の経済思想と法律思想と此二者に在り。女子に経済法律とは甚だ異・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・桃太郎の話は、たれでも知っているから、ちかごろ階級的童話の初歩的試みとして、そのつくりかえが行われている。 プロレタリアートの文学に、まず階級性のはっきりしないことは困る。特に啓蒙的な目的でつかう場合こまる。桃太郎が桃から生れて、犬、猿・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・参観者の列席の前で、佐田は児童との初歩的な階級性を帯びた質問応答によって彼の発見しつつある新しい教育法を示威しようとしたことから、ついに反動教育と決裂する。あやまれといわれたことに対して、体じゅうをブルブルふるわし「私は詫びにきたのではあり・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 集団農場にも種類があって、単に蒔つけ、刈入れ、虫とりなどのような時だけ集団的に皆で働く初歩形のものから、すっかり何も彼も共営でやって行く形まである。今日では初歩的なものが段々完全な共営にまで発達しているが、集団農場が結局農民にとって得・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・のほかフランスの数学者物理学者天文学者であったアンリ・ポアンカレの著述が三冊訳されているばかりで、ポアンカレの述作は、初歩的な読者にとってそう理解しやすいというものではない。 私たちの物理学の世界に対する知識は現象にとりまかれつつ相当乱・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ しかし、そのとき、その場に居合わせる人の中でそのトマトを一番欲しがっているというよりも一番必要としているのはどういう状況の子供か、というところへ迄、母親としての念が働いてゆくとき、そこには最も初歩の形なりに科学の精神が輝くのだと思う。・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・経済なら、経済に関して読むべき本が一通りまとめ初歩的なものから高度なものまで並べてある。 党に関したものにしろ、ロシア共産党史から、コミンテルンに関するもの、五ヵ年計画に関するパンフレットに至ってはブハーリンの誤謬を簡単に説明したものま・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・の批評は『文学新聞』への投書となる。『キノと生活』へ工場の労働通信員の寸評となって出て来る。工場内の文学研究会でまとめられた批判は「ラップ」の初歩的機関紙『成長』などへも載せられる。芝居のプログラムのうしろには、その時上演されている戯曲につ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。 ――今日は誰が読むね。 マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫