・・・ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつたえられた。勤労者のための、経済白書という言葉は、きょうのわたしたち人民の神経へは、つよく響いた。勤労者に白書を出して、青書や黒書はどういうひとたちに・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・そこで判事試補の月給では妻子は養われないと、一図に思っていたのだろう。土地が土地なので、丁度今夜のような雪の夜が幾日も幾日も続く。宮沢はひとり部屋に閉じ籠って本を読んでいる。下女は壁一重隔てた隣の部屋で縫物をしている。宮沢が欠をする。下女が・・・ 森鴎外 「独身」
・・・おなじ宿に木村篤迚、今新潟始審裁判所の判事勤むる人あり。臼井六郎が事を詳に知れりとて物語す。面白きふし一ツ二ツかきつくべし。当時秋月には少壮者の結べる隊ありて、勤王党と称し、久留米などの応援を頼みて、福岡より洋式の隊来るを、境にて拒み、遂に・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫