・・・男はずかずか私の枕元に参りまして、『お初にお目にかかります、私ことは大工助次郎と申しますもので、藤吉初めお俊がこれまでいろいろお世話様になりましたにつきましては、お礼の申し上げようもございません、別してお俊が厚いお情をこうむりました儀に・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・すなわち「濃州では四月から七月までで、別して五六月が多いという。七月になりかかると、秋風が立ち初める、とギバの難は影を隠してしまう。武州常州あたりでもやはり四月から七月と言っている」。また晴天には現われず「晴れては曇り曇っては晴れる、村雲な・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・試験前などには別して砂糖の消費が多かったようである。月日がめぐって三十二歳の春ドイツに留学するまでの間におけるコーヒーと自分との交渉についてはほとんどこれという事項は記憶に残っていないようである。 ベルリンの下宿はノーレンドルフの辻に近・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・それにも構わず善吉は毎晩のように通い詰め通い透して、この十月ごろから別して足が繁くなり、今月になッてからは毎晩来ていたのである。死金ばかりは使わず、きれるところにはきれもするので、新造や店の者にはいつも笑顔で迎えられていたのであった。「・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・然し問題は別してそれらの創作がプロレタリア文学として立派なものであるかどうかである。」その答は「遺憾ながら否である」と遠慮ぶかく書いている。われわれはもっと確信と責任とをもってこういい切らねばならぬ。真にプロレタリアートの解放と勝利との歴史・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そして引越したら、二三日で、溌剌騒然たる小学校の賑わいが、別して朗々たるラウド・スピーカアの響きとともに、朝から夕刻まで、崖上に巣をかけた私のしず心を失わした。夜間、青年学校が開かれるようになって遂に苦しさは絶頂に達した。この家は、外部の力・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・「女性なれば別して御賞美あり、三右衛門の家名相続被仰附、宛行十四人扶持被下置、追て相応の者婿養子可被仰附、又近日中奥御目見可被仰附」と云うのである。 十一日にりよは中奥目見に出て、「御紋附黒縮緬、紅裏真綿添、白羽二重一重」と菓子一折・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫