・・・ 学生時代においては読書しないとは怠惰の別名であるのが普通である。「勉強の虫」といわれることは名誉である場合が多い。われわれも学生時代に課業のほか、寄宿舎の消灯後にも蝋燭をともして読書したものである。深い、一生涯を支配するような感激的印・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・多くの人は、この言葉を小説の別名の如く気楽に考えて使用しているようですが、真の創作は未だに日本に於いて明治以後、一篇もあらわれていないと思う。どこかに、かならずお手本の匂いがします。それが愛嬌だった時代もあったのですが、今では外国の思想家も・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・これは、駒が岳。別名、甲斐駒。海抜二千九百六十六米。どんなもんだい、と胸の奥で、こっそりタンカに似たものを呟いてみるのだが、どうもわれながら、栄えない。俗っぽく、貧しく、みじんも文学的な高尚さが無い。変ったなあ、としんから笠井さんは、苦笑し・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・のである。そういうすぐれた作者の作品を読むときにわれわれはその作の主人公のすべての行為が実に動かすべからざる方則のもとに必然な推移をとっていることを悟るであろう。「運命」はすなわち「方則」の別名なのである。 また、ある少女が思春期以前に・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ その日の夕方思い付いて字引でみのむしというのを引いてみると、この虫の別名として「木螺」というのがあった。なるほど這って行く様子はいかにも田螺かあるいは寄居虫に似ている。それからまた「避債虫」という字もある。これもなかなか面白いと思った・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・もっともマッハのごときは感覚以外に実在はないと論じているが、彼のいわゆる感覚の世界は普通吾人のいう外界の別名と考えればここに述べる所とはあえて矛盾しない。 外界の事物の存在を吾人が感ずるのは前述べたとおり直接間接に吾人の五感の助けによる・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・元来無いものに付せられた空虚な言葉であるか、さもなければ同じ物の別名である。ただ人を非難したり弁護したりする時や、あるいは金を集めたり出したりする時に使い分けて便利なものだからだれでも日常使ってはいるが、今自分の言っているような根本の問題に・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ ヒューマニズムは、無方向な人間性全体主義の別名ではない。今日、ヒューマニズムがトルストイの人道主義でも、ニイチェの達人主義でもあり得ないことは自明である。きょうの私たちの生きる社会の現実の裡にあっては、悪質な反動として民衆の一般化・全・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・のがもしあるなら、或は読者の事大主義というものに立っていうならば、「確立した地位」は必ずしも、人間らしい地位でもないし、明日の保障をうけた歴史の前進に伴う地位でもない。或は「悲しきかかし」の別名かもしれないのである。 演技の前提としての・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・の問題となり、世界の注目がそこにあつめられた。この時代まだ笞刑の行われていたイギリス陸軍の兵士が、クリミヤ戦争で傷つき、運ばれてゆくスクータリーの陸軍病院という名は、有識の人々の間に「地獄」の別名となった。 シドニー・ハーバートという時・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫