・・・観客の言語服装と舞台の世界とは全然別種のもので、其間に何等の融和すべきものがない。これに加るに残暑の殊に烈しかった其年の気候はわたくしをして更に奇異なる感を増さしめる原因であった。オペラは欧洲の本土に在っては風雪最凛冽なる冬季にのみ興行せら・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・彼は自分の美しい若い妻を、女に知識は必要ないという主義で馴らしていたから、アンネットの裡に全然別種な、自分と共鳴することによって異常な興味を呼び醒された一箇の女性を発見したのであった。 この恋愛も破滅した。原因は、男の強大な主我主義と肉・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・ジャンはこの手記を書かず、別種の思い出を書いただろうと思う。 私たちは、ジャンがこの手記を機会として機械工になりたいと云う自身の少年らしい希望を一日も速く達するような条件を勇ましく掴んでゆくことを願う。 そして、彼が分別らしく又気弱・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・で輝やかしている露のきらめきの美しさとはおのずから別種のものとなっているのである。 この全集に、未発表のものが多く集められるというのは興味がある。一葉の一生は短かったから、かくされた傑作があるとは考えられないけれども、習作は習作なりに、・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・源氏物語がその一例だが、将棋の友とそれとの間に、常識は別種のものを感じ理解している。 きょうの新聞は、内閣情報部で第二回準備委員会をひらき、具体案は民間六人、官庁三人の小委員会の協議にゆだねられることになったと報じている。 先頃朝日・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・が、今日の現実の日本には、その勘の働き工合に、ピンと来る別種の勘が、根強く存在しているのである。勘の新たなる素質が黙々と蓄積されつつあるのである。〔一九三七年三月〕 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
芥川龍之介が自分の才能とか学識を越えて社会と文学そのものの大きい変化と発展を見通して、そこから来る漠然とした不安を感じて死んだのと、太宰氏の生涯の終り方とは、まったく別種のものです。芥川の死は人生と芸術の大きさに対する確信・・・ 宮本百合子 「山崎富栄の日記をめぐって」
出典:青空文庫