・・・是れ先生の文章の常に真気惻々人を動かす所以であって、而も陽春白雪利する者少き所以である。而して単に其文字から言っても、漢文の趣味の十分に解せられない今日に於て、多数人士の愛読する所とならぬは当然である。先生「一年有半」中に、 夫文人・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・なお進みて戦闘殺伐、物を盗み人を殺す者も、この主義に洩れざるものとするときは、人生の目的は、他を害して身を利するにすぎず。これをもって教育の本旨とするは当らざるに似たれども、人生発達の点に眼を着すれば、この疑を解くに足るべし。そもそも人生の・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・田舎の食物の粗なるは勿論のことなれども、田舎の物を食して田舎風に運動遊戯すれば、身体に利する所は都会の美食に勝るものあるが故なり。左れば小児を丈夫に養育せんとならば、仮令い巨万の富あるも先ず其家を八瀬大原にして、之に生理学問上の注意を加う可・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・あるいはこれによりて身に利することあるやというに、これまた思いも寄らず。すでに誉れなく、また利益なし、何のために辛苦勤学したるやと尋ねらるれば、ただ今にても返答に困る次第なれども、一歩を進めて考うれば説なきにあらず。 すなわち余は日本の・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・されど蕪村の句その影響を受けしとも見えざるは、音調に泥みて清新なる趣味を欠ける和歌の到底俳句を利するに足らざりしや必せり。 当時の和文なるものは多く擬古文の類にして見るべきなかりしも、擬古ということはあるいは蕪村をして古語を用い古代の有・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫