・・・すると自分はそうだそうだ、おれは派手な方がいいんだ、陽気にやってくれと言って、ここで死んでちゃ邪魔なんだろうとむっくり起き上って一緒に騒ぎだし、到頭自分のためのお通夜の仲間にはいってしまったという夢である。それほど寂しがり屋なのだ。 し・・・ 織田作之助 「道」
・・・ 精も根も尽果てて、おれは到頭泣出した。 全く敗亡て、ホウとなって、殆ど人心地なく臥て居た。ふッと……いや心の迷の空耳かしら? どうもおれには……おお、矢張人声だ。蹄の音に話声。危なく声を立てようとして、待てしばし、万一敵だった・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 同国の者はこの広告を見て「先生到頭死んだか」と直ぐ点頭いたが新聞を見る多数は、何人なればかくも大きな広告を出すのかと怪むものもあり、全く気のつかぬ者もあり。 然しこの広告が富岡先生のこの世に放った最後の一喝で不平満腹の先生がせめて・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・その頃は伜はもうこの世に居なかった。到頭旦那も伜の死目に逢わずじまいであったのだ。伜の娵も暇を取って行った。「御霊さま」はまだ自分等と一緒に居て下さるとおげんが思ったのは、旦那にお新を逢わせることの出来た時だった。けれども、これほどのおげん・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・彼の両親は、長い間散々種々やって見た揚句、到頭、彼もいつかは一人前の男に成るだろうと云う希望を、すっかり棄てて仕舞いました。一体、のらくら者と云うものは、家の者からこそ嫌がられますけれども、他処の人々は、誰にでも大抵気に入られると云う得を持・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・その後キンカ鳥の雄が死んだので、あとから入れたキンパラの雄でもあろうか、それがキンカ鳥の雌即ち昨今後家になった奴をからかって、到頭夫婦になってしもうた。その後鶸の雌は余り大食するというので憎まれて無慈悲なる妹のためにその籠の中の共同国から追・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 笑い話で、その時は帰ったが、陽子は思い切れず、到頭ふき子に手紙を出した。出入りの俥夫が知り合いで、その家を選定してくれたのであった。 陽子、弟の忠一、ふき子、三日ばかりして、どやどや下見に行った。大通りから一寸入った左側で、硝子が・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 到頭、彼が言葉に出した。「置けまい?」「――だけれど、もう三十日よ」 さほ子は、良人の顔を見た。彼は目を逸し、当惑らしく耳の裏をかいた。「けれども。――駄目なものなら早く片をつけた方がいいよ。いつ迄斯うしていたって」・・・ 宮本百合子 「或る日」
私はあのお話をきいた時、すぐに、到頭ゆくところまで行きついたかと思いました。私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、たとえ情人があってもなくても、いつかはああな・・・ 宮本百合子 「行く可き処に行き着いたのです」
・・・同情されると、政子さんは、到頭、「其は随分いやな事だってあるわ」と云いながら、涙組んでしまいました。「そうでしょうね」 何か考えるように首を傾げていた友子さんは、やがて政子さんの手を優しく撫でながら申しました。「私達はこ・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
出典:青空文庫