政治は人の肉体を制するものにして、教育はその心を養うものなり。ゆえに政治の働は急劇にして、教育の効は緩慢なり。例えば一国に農業を興さんとし商売を盛ならしめんとし、あるいは海国にして航海の術を勉めしめんとするときは、その政府・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・この重大な変化に気づいたとき、作者たるわたしは感動を制することがむずかしかった。「伸子」は、とうとう作者がそれを書かずにいられなかった心持そのものにおいて同感され読まれ批評されるときが来たのだ。「伸子」は、「文学」から人々の生活そのもののな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ ジイドも、彼の細君の発熱についてはそういう本質の差を知っており、又当然知ろうとするであろうのに、芸術家の死命を制する人間的叡智の根源において、歴史の相貌の質的相異の知覚を失っているばかりか、それを自ら恐怖しもしないというのは、何という・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ゴーリキイには会って見たい心持を制することができなかった。彼は、いたずらに名士ずきで会う人間とそうでない人間との種類を見わけるであろう。その確信が私に勇気を与えたのである。小さい白い紙に下手なロシア語を書いて打ちあわせ、六月のある朝、ヨーロ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・畑陸相が登壇すると、場内が俄にザワザワ、ガサガサいう音響に充たされて、畑陸相の開口を暫らく制する有様である。上から見下すと、只一様に白紙のように議席に置かれていたのは、参考地図であった。米内首相は降壇のときわざわざケースに納めて戻って来た眼・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・「親愛なゴーリキイ、私は自分の過去において経験したさまざまの闘争、その間に得た印象について小説をかきたいという心持ちを制することが出来ません」 ゴーリキイがこの二つの作家志望の動機のどちらを、健康なものとみとめているかということは、・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・の中のアンドレイ老公が女の愚劣さを制するためにと公爵令嬢マリアに数学をやらせている描写がある。同じような配慮から、その年齢と代数とが組み合わされているのであったら、教えかたで、面白さのかんどころの掴みかたを先ずわからせて行かなければ、なかな・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
・・・まだ二十四歳の血気の殿様で、情を抑え欲を制することが足りない。恩をもって怨みに報いる寛大の心持ちに乏しい。即座に権兵衛をおし籠めさせた。それを聞いた弥五兵衛以下一族のものは門を閉じて上の御沙汰を待つことにして、夜陰に一同寄り合っては、ひそか・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ フランスとベルジックとの文学で、Maupassant の書いたものには、毒を以て毒を制するトルストイ伯の評のとおりに、なんのために書いたのだという趣意がない。無理想で、amoral である。狙わずに鉄砲を打つほど危険な事はない。あの男・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・それで制することが出来ない。目をねむッて気を落ちつけ、一心に陀羅尼経を読もうとしても、脳の中には感じがない。「有にあらず。無にあらず、動にあらず、静にあらず、赤にあらず、白にあらず……」その句も忍藻の身に似ている。 人の顔さえ傍に見えれ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫